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十一、稲葉山城の夜—道真の思惑

紘一が去った後、道真は一人、部屋に残っていた。

窓の外を見ながら、道真は考えていた。

「田邊紘一……面白い男だ」

道三の目には、興味が浮かんでいた。

あの男は、只者ではない。

記憶を失っているというのは、おそらく嘘だろう。

あれほどの知識、あれほどの交渉術。

一朝一夕で身につくものではない。

長年の経験と、深い学識が必要だ。

だが、神崎家の記録を見ても、田邊紘一という名前は出てこない。

突然、現れた男。

記憶を失ったと称する男。

だが、驚くべき能力を持つ男。

「だが、何者なのだ……」

道三は、考えた。

他国からの間者か。

いや、それにしては、行動が不可解だ。

間者なら、もっと目立たないように動くはずだ。

だが、田邊紘一は、堂々と表舞台に立っている。

神崎家の筆頭家臣として。

軍師として。

まるで、隠す気がないかのように。

「謎だな……」

道真は、興味を持った。

この男を、もっと観察したい。

そして、できれば、自分の配下に欲しい。

あれだけの知恵者なら、斎藤家の力になる。

美濃統一だけでなく、天下取りにも役立つだろう。

「だが、忠誠心が強い」

道三は、思い出した。

田邊紘一の目を。

神崎家への忠誠が、あの目に宿っていた。

簡単には引き抜けないだろう。

だが、道真は諦めない。

時間をかければ、必ず落とせる。

すべての人間には、弱点がある。

金、地位、権力、女。

何かしら、欲しいものがあるはずだ。

それを見つけて、与えればいい。

「まあ、いい。時間はある」

道三は、立ち上がった。

そして、別の部屋に向かった。

そこには、道真の側近たちが集まっていた。

「殿」

側近の一人が、頭を下げた。

名を稲葉一鉄という、道三の最も信頼する家臣だった。

四十代の、精悍な顔をした男だ。

「神崎家の使者は、どうでしたか」

「面白い男だった」

道三は、答えた。

「田邊紘一。あれは、只者ではない」

「やはり、そうでしたか」

稲葉は、頷いた。

「我々も、調べましたが、不可解な点が多すぎます」

「どういうことだ」

「田邊紘一という名前、どこにも記録がありません」

稲葉は、説明した。

「神崎領の周辺、どこを探しても、その名前は出てきません」

「まるで、突然現れたかのようです」

稲葉の言葉に、道三は頷いた。

やはり、そうか。

「だが、利用できる」

道三は、笑った。

「小山領を、戦わずして手に入れる。田邊紘一が、それを手伝ってくれる」

「しかし、殿」

稲葉が、口を開いた。

「もし失敗したら……」

「失敗すれば、小山を攻める。それだけだ」

道三は、冷静に答えた。

「どちらに転んでも、わしの得だ」

側近たちは、頷いた。

さすが、道三様だ。

すべてを計算している。

田邊紘一が成功すれば、小山領を戦わずして手に入れられる。

コストゼロで、領地拡大。

失敗すれば、小山を攻める口実ができる。

そして、神崎家も敵とみなせる。

どちらに転んでも、斎藤家に有利だ。

「だが、一つ気になることがある」

道三は、窓の外を見た。

「田邊紘一の正体だ」

道三の目が、鋭くなった。

「あの男、何かを隠している」

「調べますか」

稲葉が、尋ねた。

「ああ」

道三は、頷いた。

「調べろ。田邊紘一の過去を」

「どこから来たのか、何者なのか、すべて調べろ」

「承知しました」

稲葉たちは、頭を下げた。

こうして、斎藤道三は、田邊紘一の正体を探り始めた。

だが、彼らが見つけることができるのは、何もなかった。

なぜなら、田邊紘一は、この時代の人間ではないからだ。

未来から来た、異邦人だからだ。

その秘密は、誰にも明かされることはなかった。

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