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八、稲葉山城—権力の象徴と威圧

夕方、一行は稲葉山城に到着した。

山の上に築かれた城は、威容を誇っていた。

紘一は、その姿を見上げて、思わず息を呑んだ。

石垣が高く積まれ、その上に櫓が立ち並ぶ。

天守閣はまだないが、本丸を中心に、幾重にも曲輪が配置されている。

まるで、巨大な要塞だった。

そして、至る所に兵が配置されていた。

門には槍を持った兵が十名以上。

皆、精悍な顔をしている。

訓練が行き届いているのが、一目で分かる。

城壁の上にも、弓を持った兵たちが並んでいる。

その数は、見えるだけで百を超える。

実際には、もっと多いだろう。

「すごい……」

平吉が、呟いた。

その声は、畏怖に満ちていた。

「こんな立派な城、初めて見ました」

紘一も、圧倒されていた。

神崎家の屋敷とは、規模が全く違う。

これが、戦国大名の力なのだ。

建築技術も、現代人の目から見ても素晴らしい。

石垣の積み方は、精密で美しい。

角度が計算され、排水も考慮されている。

一つ一つの石が、完璧に噛み合っている。

これだけの石垣を築くには、膨大な労力が必要だっただろう。

何千人、何万人の人々が、何年もかけて築いたのだろう。

木造建築も、見事だ。

太い柱、複雑な組み木、そして美しい屋根の曲線。

日本建築の粋が、ここに集められている。

釘を使わず、木と木を組み合わせる技術。

それが、この時代の大工の技だった。

「中へ」

案内されて、紘一たちは城内に入った。

門をくぐると、広大な敷地が広がっていた。

整然と配置された建物。

兵舎、武器庫、馬屋、倉庫。

すべてが、計画的に配置されている。

そして、警備の兵たち。

至る所に、兵が立っている。

その数は、数百に及ぶだろう。

すべてが、斎藤家の力を物語っていた。

廊下を歩きながら、紘一は観察を続けた。

床は、よく磨かれた板張り。

歩くと、キシキシと音がする。

これは、鴬張りというやつだろうか。

侵入者を音で察知するための仕掛け。

壁には、所々に槍や刀が飾られている。

実用品でありながら、装飾品でもある。

美しく磨かれた刃が、光を反射している。

そして、掛け軸。

書や絵が、飾られている。

紘一は、その一つに目を留めた。

水墨画だ。

山水画で、技術は高い。

筆使いが見事で、余白の使い方も巧みだ。

おそらく、有名な絵師の作品だろう。

「道三様は、文化人でもあるのか……」

紘一は、心の中で呟いた。

武力だけでなく、文化も重視している。

それが、斎藤道三という男の深さを示していた。

単なる武将ではない。

教養があり、芸術を理解している。

そういう男だからこそ、多くの人々を惹きつけるのだろう。

やがて、紘一は控えの間に通された。

平吉と伊藤、そして護衛の兵たちは、別室で待機することになった。

「田邊さん、気をつけてください」

平吉が、心配そうに言った。

「ああ。大丈夫だ」

紘一は、笑顔で答えた。

だが、その笑顔の裏では、緊張が高まっていた。

平吉たちと別れ、紘一は一人、控えの間に入った。

部屋は、質素だが品があった。

畳が敷かれ、床の間には掛け軸と花が飾られている。

掛け軸には、禅の言葉が書かれていた。

「無」

たった一文字。

だが、その筆使いは見事で、力強い。

花は、秋の野花だった。

ススキ、リンドウ、フジバカマ。

質素だが、美しく生けられている。

窓からは、城下町が見える。

夕日に照らされた町並みは、美しかった。

無数の家々が、山の麓に広がっている。

煙が、あちこちから上がっている。

夕食の準備をしているのだろう。

人々の営みが、そこにはある。

だが、紘一は落ち着けなかった。

これから、斎藤道三に会う。

美濃の蝮。

戦国時代でも屈指の策略家。

どんな男なのか。

どんな問答が待っているのか。

紘一は、深呼吸をした。

落ち着け。

冷静に、慎重に。

相手の言葉の裏を読み、自分の意図を悟られないように。

心理戦が、始まる。

しばらくして、襖が開いた。

「道三様が、お待ちです」

若い武士が、紘一を案内した。

二十代くらいの、真面目そうな顔をした男だった。

紘一は、立ち上がった。

そして、廊下を歩いた。

長い廊下だった。

足音が、静かに響く。

キシキシという、床の音。

襖の向こうに、斎藤道三がいる。

紘一の心臓が、激しく打ち始めた。

ドクン、ドクン、ドクン。

まるで、胸を破って飛び出しそうなほど。

だが、表情は冷静を保った。

呼吸を整える。

やがて、大広間の前に着いた。

「どうぞ」

武士が、襖を開けた。

紘一は、中に入った。

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