三十六、帰還
その日の夕方、神崎軍は凱旋した。
領民たちが、道の両側に並んで出迎えた。
「若殿、万歳!」
「神崎家、万歳!」
歓声が、響き渡った。
広信は、馬上から手を振った。
そして、田邊の方を向いて、大きく頷いた。
田邊も、小さく頷き返した。
屋敷に戻ると、家臣たちが出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「見事な勝利でございました」
誰もが、喜びに満ちた顔をしていた。
伊藤も、田邊に近づいてきた。
「田邊殿」
「はい」
「私の不明を、お詫びします」
伊藤は、深く頭を下げた。
「あなたを疑って、申し訳ございませんでした」
「いえ、当然のことです」
田邊は、首を横に振った。
「伊藤殿の警戒は、正しいものでした」
「いや、あなたの策は完璧でした。そして、あなたの戦いぶりも見事でした」
伊藤は、田邊の手を握った。
「今日から、私はあなたを信頼します」
「ありがとうございます」
田邊は、伊藤の手を握り返した。
こうして、田邊は神崎家の中で、確固たる地位を築いた。
よそ者から、信頼される家臣へ。
大きな変化だった。
だが、広信は真っ先に、父の部屋に向かった。
「父上、ただいま戻りました」
床に伏している広綱に、広信は報告した。
「父上の領地を守りました。そして、松永を降伏させました」
広綱は、意識がないはずだった。
だが、その瞬間、わずかに目を開けた。
「広信……」
かすかな声だった。
「父上!」
広信は、父の手を握った。
「よく……やった……」
広綱は、そう言って、また目を閉じた。
だが、その顔には、安堵の色が浮かんでいた。
田邊は、その光景を遠くから見ていた。
父と息子の絆。
戦国時代も、現代も、変わらないものがある。
「俺も、いつか帰れるだろうか」
田邊は、心の中で呟いた。
現代に、帰る方法はあるのだろうか。
それとも、もうこの時代で生きていくしかないのか。
答えは、まだ分からない。
だが、一つだけ確かなことがある。
今日、田邊は戦国時代での最初の戦いを生き延びた。
そして、明日も生きるだろう。
一日一日を、積み重ねていく。
それしか、できることはない。
第一章 完
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