三十三、戦後の光景
戦場には、無数の死体が転がっていた。
松永軍の死者は、五十を超えた。
神崎軍の死者は、十名ほど。
負傷者は、双方合わせて七十名以上。
圧倒的な勝利だった。
だが、田邊には勝利の喜びはなかった。
ただ、虚しさだけがあった。
自分が、少なくとも二人殺した。
いや、もっとかもしれない。
混戦の中で、何人斬ったか覚えていない。
田邊は、自分の手を見た。
血で汚れた手。
この手で、人の命を奪った。
若者の顔が、脳裏に蘇る。
驚いた顔。
苦痛に歪んだ顔。
そして、光が消えていく目。
「うっ……」
田邊は、吐き気を覚えた。
だが、何も出てこない。
朝から何も食べていないからだ。
「田邊さん」
広信が、近づいてきた。
「素晴らしい働きでした。あなたのおかげで、我らは勝ちました」
「いえ……」
田邊は、力なく答えた。
「私は、ただ……」
「田邊さんの策が完璧でした。そして、戦場での判断も見事でした」
広信は、田邊の肩を叩いた。
「あなたは、我が家の宝です」
田邊は、何も答えられなかった。
宝、と言われても、実感がわかない。
ただ、人を殺した。それだけだ。
「田邊さん、初陣の後は、誰でもそうなります」
年配の伊藤が、田邊に声をかけた。
「人を殺すことは、容易いことではありません。だが、それが戦だ。生き延びるためには、殺すしかない」
「……そうですね」
田邊は、立ち上がった。
そして、戦場を見回した。
死体、血、苦しむ傷病者。
これが、戦国時代の現実だ。
田邊は、改めて実感した。
ここは、平和な現代ではない。
命が軽く扱われる、戦乱の世だ。
生き延びるためには、戦うしかない。
人を殺すことも、厭わなければならない。
「覚悟を決めるしかない」
田邊は、心の中で呟いた。




