三十二、戦場の覚醒
戦いが進むにつれて、田邊の中で何かが変わっていった。
最初の恐怖と躊躇が、徐々に薄れていく。
代わりに、冷静な観察眼が生まれた。
敵の動き、味方の位置、戦況の流れ。
すべてが、スローモーションのように見える。
そして、その時、田邊の視界が突然広がった。
まるで、空から戦場を見下ろしているかのような感覚。
谷全体が、地図のように見える。
敵の配置、味方の配置、戦況の推移。
すべてが、一目で分かる。
(これは……戦術眼か)
田邊は、直感的に理解した。
これも、自分に与えられた能力の一つだ。
戦場全体を俯瞰し、状況を把握する力。
そして、田邊は気づいた。
「右翼が手薄だ」
松永軍の右翼が、崩れかけている。
そこを突けば、敵の陣形を完全に崩せる。
「広信様!」
田邊は、大声で叫んだ。
「右翼です! 右翼を突いてください!」
広信は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに理解した。
「右翼に回れ!」
広信の号令で、神崎軍の一部が右翼に回り込んだ。
そして、敵の弱点を突いた。
「ぐあっ!」
松永軍の右翼が、完全に崩壊した。
陣形が崩れ、兵たちがパニックに陥る。
「退け、退けっ!」
松永が叫んだ。
だが、退路は塞がれている。
前にも後ろにも行けない。
ただ、神崎軍に押されていくだけだった。
田邊は、戦場を見渡した。
勝てる。
この戦い、勝てる。
敵は完全に混乱している。
士気は崩壊し、統制も取れていない。
後は、押し切るだけだ。
「押せ、押せっ!」
田邊は叫んだ。
神崎軍の兵たちは、田邊の声に応えた。
「おおっ!」
一斉に前進する。
松永軍は、もはや戦う意志を失っていた。
ただ、生き延びることだけを考えている。
「降伏する! 降伏するぞ!」
ついに、松永が叫んだ。
「戦いをやめろ! 我らの負けだ!」
松永の声で、戦いが止まった。
松永軍の兵たちは、次々と武器を捨てた。
神崎軍の兵たちは、歓声を上げた。
「勝った!」
「我らの勝利だ!」
田邊は、その場に膝をついた。
全身の力が、一気に抜けた。
戦いが終わった。
そして、神崎軍が勝った。




