二十六、松永の進軍
同じ頃、松永領では、出陣の準備が進められていた。
松永久秀は、自室で鎧を身につけていた。
黒い漆塗りの立派な鎧だ。
元は商人だった松永だが、今では立派な武将の装いをしている。
「殿、準備が整いました」
家臣が報告に来た。
「兵は、何名集まった」
「百五十名でございます」
「よし。では、明日の朝、出陣する」
松永は、満足そうに頷いた。
百五十名。神崎家の倍近い兵力だ。
これなら、勝利は確実だ。
「殿」
年配の山田が、部屋に入ってきた。
「何だ、山田。まだ何か言いたいことがあるのか」
「はい。どうしても、気になることがありまして」
山田は、慎重に言葉を選んだ。
「神崎家の、あの男のことです」
「田邊紘一、とかいう男か」
「はい。斥候の報告によれば、その男が軍議に参加しているとか」
「だから、何だ」
「もし、その男が何か策を立てているとしたら……」
「山田」
松永は、苛立った声で言った。
「お前は、いつもそうだ。用心深すぎる」
「ですが……」
「確かに、用心は必要だ。だが、過度な用心は、機会を逃す」
松永は、立ち上がった。
「今、神崎家は最も弱い。広綱は倒れ、若い広信が継いだばかり。こんな好機は、二度とない」
「それは、その通りですが」
「ならば、躊躇している場合ではない。明日、我らは出陣する。そして、神崎領を手に入れる」
松永の決意は固かった。
山田は、それ以上何も言えなかった。
だが、心の中では、不安が消えなかった。
(何か、嫌な予感がする……)
山田は、その予感を払拭できなかった。




