二十三、田んぼでの作業
翌日から、紘一は太郎の田んぼで、間断灌漑の実験を始めた。
太郎の田んぼは、村の外れにあった。
広さは、五畝(約500平方メートル)程度。
小さな田んぼだが、太郎一家にとっては、生命線だった。
「まず、水を半分くらい抜きます」
紘一は、太郎に指示した。
「半分も、ですか!」
太郎は、驚いた。
「大丈夫です。稲は、常に水に浸かっている必要はありません」
紘一は、現代の知識を思い出しながら、慎重に説明した。
「稲の根は、酸素が必要です。でも、水が多すぎると、酸素が足りなくなります」
「酸素……ですか」
「はい。空気のことです。水を時々抜くことで、根に酸素が届きます。そうすると、根が強くなります」
太郎は、半信半疑だった。
だが、田邊様を信じると決めた。
「分かりました。やってみます」
太郎は、田んぼの水を抜き始めた。
小さな水路を開け、水を流す。
ゆっくりと、水位が下がっていく。
半分ほど抜いた時、紘一は太郎に止めるように言った。
「これくらいでいいです」
「これで、本当に大丈夫なんでしょうか……」
太郎は、不安そうに田んぼを見た。
水位が下がった田んぼは、いつもと違う姿をしていた。
稲の根元が、露出している。
まるで、稲が渇いているように見える。
「大丈夫です。三日から五日、このままにしておきます」
「三日から五日……」
「はい。そして、土の表面が乾いてきたら、また水を入れます」
「それを、繰り返すんですか」
「その通りです。これを間断灌漑と言います」
紘一は、続けた。
「この方法には、いくつか利点があります」
「利点、ですか」
「はい。一つ目は、根が強くなること。二つ目は、水を節約できること」
太郎の目が、輝いた。
「水を、節約できるんですか」
「ええ。今年のように雨が少ない年には、特に有効です」
「それは……助かります」
太郎は、嬉しそうに笑った。
「他にも、利点はありますか」
「はい。病気にかかりにくくなります」
「病気?」
「稲も、病気になるんです。特に、水が多すぎると、根が腐る病気になりやすい」
紘一は、説明を続けた。
「でも、間断灌漑をすれば、そのリスクが減ります」
太郎は、真剣に聞いていた。
そして、メモを取ろうとした。
いや、メモは取れない。太郎は字が読めない。
だから、頭の中で必死に覚えようとしていた。
「分からないことがあったら、いつでも聞いてください」
紘一は、言った。
「はい、ありがとうございます」




