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十五、松永という男

一方、神崎領の南に位置する松永領では、領主・松永久秀が家臣たちと密談をしていた。

松永久秀は、四十代前半の野心家だった。

元は商人の出身で、武力と策略で小領主の地位を手に入れた男だった。

「神崎広綱が、病で倒れたという噂だ」

松永は、家臣たちに言った。

「本当でしょうか」

家臣の一人が尋ねた。

「確かな情報だ。斥候が確認した」

松永の目が、危険な光を放った。

「これは、好機だ」

「神崎領を、奪うのですか」

「当然だ。あの領地は小さいが、水が豊富だ。田んぼも良い。手に入れれば、我らの石高は倍になる」

松永は、地図を広げた。

神崎領の位置が、印されている。

「だが、神崎家には、まだ兵がいます」

「百にも満たぬ小勢だ。我らの百五十で攻めれば、簡単に潰せる」

松永は、自信満々だった。

「しかも、今は広綱が倒れている。指揮官がいない軍など、烏合の衆だ」

「若君の広信がいますが」

「あんな小僧、怖れるに足らぬ」

松永は、笑った。

だが、その家臣の中に、一人だけ不安そうな顔をしている者がいた。

名を山田という、年配の武士だった。

「殿、一つよろしいでしょうか」

「何だ、山田」

「神崎家には、最近、奇妙な男が加わったという噂があります」

「奇妙な男?」

「はい。記憶を失った旅人だそうですが、字が読めて、知恵もあるとか」

松永は、鼻で笑った。

「そんな男が一人加わったところで、何が変わる」

「ですが……」

「案ずるな。我らの勝利は、揺るがぬ」

松永は、断言した。

そして、この判断が、後に松永の運命を大きく変えることになる。


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