十、冬の準備—医療と福祉の拡充
十月の終わり、冬の訪れが近づいてきた。
朝晩の気温が下がり、木々の葉が色づき始めている。
紅葉が美しい季節だが、同時に、厳しい冬への備えをしなければならない時期でもあった。
紘一は去年の冬の教訓を思い出していた。
源蔵が肺炎で倒れた。
貧しい農民たちが、寒さと飢えに苦しんだ。医療も、福祉も、不十分だった。
今年は、違う。
今年の豊作と、道三からの報酬で、領地の財政に余裕がある。
その余裕を、医療と福祉に投資する。
紘一は広綱に提案した。
「殿、冬に向けて、いくつか準備をしたいことがあります」
「何だ」
「まず、医療です」紘一は説明した。
「宗安先生に、冬の間、週に一度、村を回診してもらいたいと思います」
広綱は頷いた。
「それは、良い案だ」
「その費用を、領地が負担します」紘一は続けた。
「そうすれば、貧しい農民も、医者にかかれます」
「分かった。そうしよう」
「次に、薬です」紘一は続けた。
「冬に必要な薬を、事前に準備しておきます」
紘一は描画能力を使って、薬草を現実化するつもりだった。
だが、それは広綱には言えない。
「薬は、どうやって手に入れるのだ」広綱が、尋ねた。
「私が、手配します」紘一は曖昧に答えた。
広綱は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
紘一を信頼しているからだ。
「そして、最後に、福祉です」紘一は続けた。
「特に貧しい家庭に、薪と米を配りたいと思います」
「どれくらいの家庭だ」
「約二十軒ほどです」紘一は答えた。
「各家庭に、薪を十束、米を二俵」
広綱は計算した。
「二十軒で、薪二百束、米四十俵か」
「はい」
「分かった。そうしよう」広綱は即座に答えた。「
今年は、豊作だった。その恩恵を、領民に還元する」
紘一は感謝した。
「ありがとうございます」
その日から、紘一は準備を始めた。
まず、宗安医師を訪ねた。
「先生、冬の間、週に一度、村を回診していただけませんか」
宗安は、驚いた顔をした。
「回診、ですか」
「はい。貧しい農民たちは、医者にかかる費用がありません」紘一は説明した。
「ですから、こちらから訪ねていきたいのです」
宗安は、感心したように頷いた。
「それは、素晴らしい考えですね」
「費用は、領地が負担します」
「分かりました。喜んで協力します」宗安は、微笑んだ。
次に、紘一は薬草の準備を始めた。
夜、一人で部屋にこもり、様々な薬草を描いた。
解熱剤になる柳の皮、痛み止めになる薬草、咳止めになる薬草。
宗安から教わった知識を元に、一つ一つ丁寧に描く。
そして、現実化する。
数日間かけて、冬に必要な薬草を、大量に現実化した。
だが、それには、大きなエネルギーを消費した。
紘一は何度も疲労で倒れそうになった。
だが、休み休み、作業を続けた。
やがて、十分な量の薬草が準備できた。
紘一はそれらを宗安に届けた。
「先生、これらの薬草を、使ってください」
宗安は、驚いた。
「こんなにたくさん……どこで手に入れたのですか」
「それは、秘密です」紘一は微笑んだ。
宗安は、薬草を確認した。
「すべて、上質ですね」宗安の目が、輝いた。
「これだけあれば、冬を乗り越えられます」
次に、紘一は貧しい家庭のリストを作った。
佐々木に調査を依頼し、特に困窮している家庭を特定した。
老人だけの家庭、病人がいる家庭、子供が多い家庭。
様々な理由で、困窮している家庭が、約二十軒あった。
紘一はそのリストを持って、広綱に報告した。
「これらの家庭に、薪と米を配ります」
広綱はリストを見た。
「分かった。準備しよう」
数日後、薪と米が準備された。
紘一は平吉、広信と一緒に、それらを各家庭に届けて回った。
最初に訪れたのは、源蔵の家だった。
源蔵は、元気になっていたが、まだ完全ではない。
冬は、再び体調を崩す可能性があった。
「源蔵さん、これ、どうぞ」紘一は薪と米を渡した。
源蔵は、驚いた顔をした。
「田邊様、これは……」
「冬への備えです」紘一は微笑んだ。
「体を大切にしてください」
源蔵の目に、涙が滲んだ。「ありがとうございます」
次に訪れたのは、次郎の家だった。
次郎は、今年の豊作で借金を返せたが、まだ生活に余裕はなかった。
「次郎さん、これ、どうぞ」
「田邊様、ありがとうございます」次郎も、感激していた。
こうして、二十軒すべての家庭に、薪と米を届けた。
どの家庭も、感謝の言葉を述べた。涙を流す者もいた。
紘一はその光景を見ながら、満足していた。
人々を助けられる。それが、何より嬉しかった。




