五、収穫祭当日—喜びと感謝の一日
収穫祭の日、天気は快晴だった。
秋の澄んだ青空が広がり、爽やかな風が吹いている。
祭り日和だった。
午前中から、領民たちが屋敷に集まり始めた。
普段は入ることのない屋敷の門を、緊張しながらくぐる。
だが、その顔には、期待があった。
中庭には、すでに多くの人が集まっていた。
総勢で、三百人ほどだろうか。
神崎領のほぼすべての領民が、ここにいた。
舞台の前には、料理が並べられていた。
大きな釜で炊かれた白米、焼き魚、煮物、漬物。そして、酒。
その量は、圧巻だった。
「すごい……」
「こんなにたくさんの料理……」
領民たちは、驚きの声を上げた。
正午、広綱が舞台に上がった。
中庭が、静かになった。
皆、広綱を見ている。
「皆、よく集まってくれた」広綱の声が、中庭に響いた。
「今日は、今年の豊作を祝う日だ」
領民たちから、拍手が起こった。
「今年の収穫は、神崎領始まって以来の大豊作だった」
広綱は続けた。
「これは、皆の努力の成果だ」
広綱は間を置いてから、続けた。
「特に、田邊の指導が、大きかった」広綱は紘一を見た。「田邊、前へ」
紘一は舞台に上がった。
領民たちから、大きな拍手が起こった。
「田邊様!」
「ありがとうございます!」
様々な声が、飛んできた。
紘一は深く頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございます」
「田邊は間断灌漑という新しい方法を教えてくれた」広綱は説明した。
「その結果、収穫が大幅に増えた」広綱の声が、力強くなった。
「これからも、田邊の指導の下、領地を発展させていく」
領民たちは、再び拍手をした。
「では、宴を始めよう」広綱が、号令をかけた。
「皆、食べて、飲んで、楽しんでくれ」
宴が始まった。
料理が配られ、酒が注がれる
。領民たちは、食べ始めた。
「美味しい!」
「こんなに美味しい米、初めて食べた」
白米の飯を食べた領民たちが、感激している。
普段は、雑穀の粥を食べている彼らにとって、白米は贅沢品だった。
紘一も、領民たちと一緒に食べた。
太郎、源蔵、次郎、様々な人々と、言葉を交わした。
「田邊様、本当にありがとうございます」
「今年は、本当に良い年でした」
皆、感謝の言葉を述べた。
宴が進むと、舞台で出し物が始まった。
最初は、太郎たちによる伝統的な踊りだった。
太鼓の音に合わせて、数人の男たちが踊る。
力強く、リズミカルな踊りだった。
領民たちは、手拍子をしながら見ていた。
次に、子供たちによる歌だった。
寺子屋の生徒たちが、舞台に上がり、歌を歌った。
澄んだ声が、中庭に響く。
紘一はその光景を見ながら、満足していた。
人々の笑顔。それが、何より美しかった。
やがて、広綱が再び舞台に上がった。
「皆、静かに聞いてくれ」
中庭が、静かになった。
「今日は、もう一つ、発表がある」広綱は言った。
領民たちは、期待の目で広綱を見た。
「来年から、神崎領では、年貢を軽減する」
中庭に、驚きの声が広がった。
「年貢を、軽減……」
「本当ですか」
広綱は頷いた。「今年の豊作で、領地の財政に余裕ができた」広綱は説明した。
「その余裕を、領民に還元する」
広綱は具体的に説明した。
「これまで、収穫の四割を年貢として納めてもらっていた。来年からは、三割五分にする」
領民たちは、信じられないという顔をした。
年貢の軽減。それは、彼らにとって、夢のような話だった。
「本当に、いいんですか」太郎が声を上げた。
「ああ」広綱は微笑んだ。「これも、田邊の提案だ」
領民たちは、紘一を見た。
紘一は舞台に上がった。
「皆さん」紘一は説明した。
「今年の豊作は、皆さんの努力の成果です、その成果を、皆さんが享受するべきだと思います」
紘一の声が、力強くなった。
「年貢を軽減すれば、皆さんの生活が楽になります」紘一は続けた。
「そして、その余裕で、もっと良い農業ができます。もっと良い生活ができます」
「そして、それが、領地全体の発展につながります」広綱が、補足した。
「領民が豊かになれば、領地も豊かになる」
領民たちは、涙を流していた。
「ありがとうございます」
「本当に、ありがとうございます」
様々な声が、飛んできた。
太郎は舞台に駆け上がり、広綱と紘一の前に跪いた。
「殿、田邊様、本当にありがとうございます」太郎の声は、震えていた。
「俺たち、一生、この恩を忘れません」
他の領民たちも、次々と舞台に近づき、頭を下げた。
紘一はその光景を見ながら、胸が熱くなった。
これが、自分がこの時代で生きる意味なのだと。
人々の幸せのために働く。それが、自分の使命なのだと。
宴は、夕方まで続いた。
太陽が西に傾き、長い影が中庭を覆い始めた頃、宴は終わりに近づいた。
広綱が、最後の挨拶をした。
「皆、今日は来てくれてありがとう」広綱の声には、満足感があった。
「来年も、良い年にしよう」
「はい!」領民たちは、力強く答えた。
領民たちは、満足そうな顔で、屋敷を後にした。
その背中には、希望があった。
紘一は中庭に残り、片付けを手伝った。
広信と平吉も手伝ってくれた。
「田邊さん、素晴らしい祭りでしたね」広信は嬉しそうに言った。
「ああ。皆、喜んでくれた」
「年貢の軽減も、素晴らしい決断でした」平吉も言った。
「広綱様の英断です」紘一は謙虚に答えた。
実際には、紘一が広綱に提案したことだった。
だが、最終的に決断したのは、広綱だった。
片付けが終わった後、三人は並んで座った。
夕日が、美しかった。オレンジ色の光が、空を染めている。
「今年は、本当に良い年でしたね」広信が呟いた。
「ああ」紘一は頷いた。
「だが、来年は、もっと良い年にしよう」
「はい」広信と平吉は同時に答えた。
三人は、夕日を見つめていた。
新しい時代が、始まろうとしていた。




