第五章 収穫 一、初秋の訪れ—黄金の田と豊穣の予感
九月に入り、秋が訪れた。
朝晩の気温が下がり、空気が澄んでくる。
空は高く、雲は薄い。秋特有の、透明感のある季節だった。
そして、田んぼは、完全に黄金色に染まっていた。
稲穂が重く垂れ下がり、風に揺れている。
その光景は、まるで黄金の海のようだった。
太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
紘一は朝早くから村を訪れていた。
今日は、収穫の開始日だった。
村の広場には、多くの農民が集まっていた
。皆、鎌を持ち、笠をかぶっている。
その顔には、期待と緊張が混ざっていた。
今年の収穫が、どれほどになるか。
それが、彼らの一年を左右する。
「皆さん、おはようございます」紘一は農民たちの前に立った。
「おはようございます、田邊様」農民たちは、一斉に答えた。
「今日から、収穫が始まります」紘一は言った。
「今年は、間断灌漑を採用した田んぼが多くあります。
皆さんの努力が、どれほどの成果を生むか、楽しみです」
農民たちは、頷いた。
「では、始めましょう」紘一は号令をかけた。
農民たちは、それぞれの田んぼへ散っていった。
紘一は太郎の田んぼへ向かった。
太郎はすでに田んぼに入っていた。
「田邊様、おはようございます」太郎は嬉しそうに挨拶した。
「太郎さん、いよいよですね」
「はい」太郎の目は、輝いていた。
「去年、十二俵でした、今年は、それ以上になると思います」
「楽しみですね」
太郎は鎌を持って、稲を刈り始めた。
ザクッ、ザクッという音が響く。
刈り取った稲を、束ねていく。
紘一も、手伝った。鎌を持ち、稲を刈る。
この動作も、能力のおかげで、自然に体が動く。
稲を刈りながら、紘一は稲穂を観察した。
粒が大きく、ぎっしりと詰まっている。
明らかに、去年よりも良い出来だった。
「これは……豊作だな」紘一は呟いた。
太郎も、同じことを感じていた。
「田邊様、今年は本当にすごいです」太郎の声は、興奮していた。
「稲穂が、こんなに重いんです」
数時間、稲刈りを続けた。太陽が高く昇り、気温も上がってきた。
汗が、額を流れる。だが、誰も休まない。
収穫の喜びが、疲れを忘れさせる。
昼過ぎ、太郎の田んぼの半分ほどが刈り取られた。
刈り取った稲は、田んぼの端に積まれている。
その量を見て、紘一は驚いた。
「太郎さん、これ、去年よりもかなり多いですね」
「はい」太郎も、驚いていた。
「まだ半分しか刈っていないのに、去年の全体量に近いです」
紘一は計算した。
もし、このペースなら、太郎の今年の収穫は、二十俵を超えるかもしれない。
去年の十二俵の、ほぼ倍だ。
「これは……予想以上だ」紘一は呟いた。
「ありがとうございます、田邊様」太郎の声は、震えていた。
「これで、家族を養えます。子供たちに、もっと良い生活をさせられます」
紘一は太郎の肩を叩いた。
「太郎さんの努力の成果です」
だが、内心では、紘一も感動していた。
間断灌漑が、これほどの効果を生むとは。予想以上だった。
そして、太郎だけでなく、他の農民の田んぼも、同じような状況だった。
紘一は次々と他の田んぼを見て回った。
どの田んぼも、豊作だった。
稲穂が重く垂れ下がり、粒が大きく詰まっている。
「これは……神崎領全体で、大豊作になるぞ」紘一は確信した。
その日の夕方、紘一は広綱に報告した。
「殿、今年の収穫は、予想を大きく上回りそうです」
広綱の顔が、明るくなった。「本当か」
「はい。間断灌漑を採用した田んぼは、去年の一・五倍から二倍の収穫が見込めます」
広綱は感激した様子で言った。
「それは……素晴らしい」
「領地全体では、去年の一・五倍ほどの収穫になると思います」紘一は続けた。
広綱はしばらく黙っていた。
そして、深くため息をついた。
「田邊、お前が来てから、この領地は本当に変わった」広綱の声には、感謝が込められていた。
「農業が発展し、教育が広がり、医療が改善された」「そして、今、大豊作だ」
「皆さんの協力があってこそです」紘一は謙虚に答えた。
「だが、お前が道を示した」広綱は続けた。
「それが、何より重要だった」
広綱は窓の外を見た。夕日が、田んぼを照らしている。
黄金色の稲が、美しく輝いている。
「この光景を、わしは一生忘れない」広綱は呟いた。




