十七、夏の訪れ—領地の繁栄と新たな課題
六月に入り、夏が訪れた。
日差しは強くなり、気温も上がった。
田んぼの稲は、順調に育っている。緑の葉が、風に揺れている。
間断灌漑を採用した田んぼは、特に順調だった。
稲の茎が太く、葉の色が濃い。明らかに、他の田んぼよりも良く育っている。
農民たちは、喜んでいた。
「田邊様の教えた通りにしたら、本当に稲が元気になりました」
「今年の収穫が楽しみです」
紘一も、田んぼを見回りながら、満足していた。
だが、新しい課題も見えてきた。
ある日、紘一は佐々木から報告を受けた。
「田邊殿、少し気になる情報があります」
「何でしょうか」
「西の領主、名を長井道利という男ですが、最近、兵を増強しているようです」
佐々木は、真剣な顔で言った。
「兵を増強……」
「はい。理由は不明です」佐々木は、続けた。
「ですが、何か企んでいる可能性があります」
紘一は地図を広げた。長井道利の領地は、神崎領の西に位置している。
もし、長井が神崎領を攻めてきたら、防ぐのは難しい。
「長井について、もっと詳しく調べてください」紘一は指示した。
「承知しました」
数日後、佐々木が詳しい情報を持ってきた。
「長井道利は、四十五歳ほどの男です」佐々木は、報告した。
「性格は、野心的で、攻撃的です」
「領地の規模は」
「約千五百石。神崎家よりも大きいです」
紘一は緊張した。神崎家は、約千石。長井家の方が、規模が大きい。
「軍事力は」
「兵は、約三百名。よく訓練されています」
紘一は考え込んだ。三百名。神崎家の兵は、約百五十名。倍の戦力だ。
「長井の目的は、何でしょうか」
「おそらく、領地の拡大です」佐々木は、分析した。
「長井は、常に周辺の領主を狙っています」
「神崎家も、狙われているのでしょうか」
「可能性はあります」佐々木は、頷いた。
紘一はすぐに広綱に報告した。
広綱は真剣な顔で聞いた。「長井が、動いているのか……」
「はい。警戒が必要です」
「分かった」広綱は立ち上がった。「防備を固めよう」
その日から、神崎家は、警戒態勢に入った。
国境の警備を強化し、兵の訓練を増やした。
紘一も、万が一の戦いに備えて、準備を始めた。
だが、心の中では、戦いを避けたいと思っていた。
また、人を殺すことになる。また、仲間が死ぬかもしれない。
「何とか、外交で解決できないか……」紘一は考えた。
そして、一つの案が浮かんだ。
道三に相談する。
道三は美濃の統一を進めている
長井も、いずれは道三の傘下に入る可能性がある。
ならば、道三から長井に、神崎家を攻めないように言ってもらえないか。
紘一は広綱に提案した。
「殿、道三様に相談してはどうでしょうか」
広綱は少し考えてから、頷いた。「それは、良い案だ」
「私が、稲葉山城に行きます」
「頼む」
翌日、紘一は再び稲葉山城へ向かった。




