十四、寺子屋の発展—識字率の向上と社会の変化
初夏、寺子屋も大きく発展していた。
生徒の数は、六十名を超えていた。増築した建物が、いっぱいになっていた。
そして、生徒たちの学習レベルも、上がっていた。
ある日の授業で、紘一は驚くべき光景を見た。
上級クラスの生徒の一人、名を清次という十二歳の少年が、自分で書いた文章を読んでいた。
「春になると、田んぼに水が入ります。農民たちは、田植えをします。秋になると、稲が実ります。収穫の時期です」
清次の文章は、シンプルだが、正確だった。文法も、字も、すべて正しい。
「素晴らしい」紘一は拍手をした。
他の生徒たちも、拍手をした。
清次は、照れくさそうに座った。
紘一は感動していた。数ヶ月前まで、字が読めなかった少年が、今は自分で文章を書けるようになっている。
授業が終わった後、紘一は清次を呼んだ。
「清次、よく頑張ったな」
「ありがとうございます、田邊先生」清次は、嬉しそうに言った。
「これからも、勉強を続けてくれ」紘一は励ました。「お前なら、もっと多くのことができる」
「はい」清次の目は、輝いていた。
紘一は清次の未来を思った。この少年は、いずれ、この領地の重要な人材になるだろう。字が読める。文章が書ける。それだけで、この時代では大きなアドバンテージだ。
そして、清次のような生徒が、他にも何人もいる。彼らが大人になれば、この領地は、大きく変わるだろう。
教育は、未来への投資だ。その成果が、少しずつ見え始めている。
その日の午後、紘一は広信と話をしていた。
「広信様、寺子屋、順調ですね」
「はい」広信は嬉しそうに言った。「生徒たちの成長が、目覚ましいです」
「広信様の指導のおかげです」
「いえ、田邊さんと平吉のおかげです」広信は謙虚に言った。
「三人で、協力してきた成果ですね」
「そうですね」広信は微笑んだ。
「ところで」紘一は提案した。「寺子屋を、さらに拡大してはどうでしょうか」
「拡大、ですか」
「はい」紘一は説明した。「今、寺子屋は、この村だけです。ですが、他の村にも作ってはどうでしょうか」
広信は目を輝かせた。「それは、素晴らしい案ですね」
「領地全体で、教育を広める」紘一は続けた。「そうすれば、もっと多くの人が字を学べます」
「ですが、教師が足りません」広信は現実的な問題を指摘した。
「今の生徒の中で、優秀な者を教師として育てましょう」紘一は提案した。「清次のような生徒です」
広信は考え込んだ。そして、頷いた。「それは、良い案ですね」
「まず、清次に、助手として働いてもらいましょう」紘一は続けた。「そして、教える経験を積んでもらいます」
「はい」
こうして、寺子屋の拡大計画が始まった。




