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十三、田植えの季節—領民との絆と豊かさの予感

道三への返事を送った後、紘一は再び領地の仕事に専念した。

初夏は、田植えの季節だった。

村では、すべての農民が田植えに追われていた。朝早くから、夕方遅くまで、田んぼで働く。腰を曲げて、一本一本、稲の苗を植えていく。重労働だが、誰も文句を言わない。これが、彼らの生活だからだ。

紘一も、田植えを手伝った。

太郎の田んぼで、農民たちと一緒に、泥の中に入った。

「田邊様、手伝っていただかなくても……」太郎は恐縮した。

「いや、俺も一緒にやりたい」紘一は微笑んだ。「皆と同じ汗を流したい」

農民たちは、感激した。領主の家臣が、自分たちと一緒に田植えをする。それは、珍しいことだった。

紘一は腰を曲げて、苗を植え始めた。泥の感触が、足に伝わる。柔らかく、冷たい。だが、不快ではない。むしろ、心地よい。

一本、また一本。丁寧に植えていく。列を揃え、間隔を均等にする。

「田邊様、お上手ですね」太郎が感心した。

「昔、少しやったことがあるんだ」紘一は答えた。

実際には、現代の体験学習で、田植えをしたことがあった。生徒たちと一緒に、田んぼに入った。あの時の感覚が、体に残っている。

数時間、田植えを続けた。腰が痛くなり、足が疲れた。だが、充実感があった。

休憩時間、農民たちと一緒に座った。

「田邊様、これ、どうぞ」太郎の妻が、握り飯を差し出した。

「ありがとう」紘一は受け取った。

握り飯は、塩むすびだった。シンプルだが、美味しかった。汗をかいた後の塩気が、体に染み渡る。

「田邊様」源蔵が、紘一の隣に座った。「今年は、良い年になりそうです」

「そうですね」紘一は頷いた。

「間断灌漑を採用する農民が、増えました」源蔵は、嬉しそうに言った。「去年の太郎の成功を見て、皆、やる気になったんです」

紘一は周囲を見回した。確かに、多くの田んぼで、間断灌漑の準備がされているようだった。

「今年の収穫が楽しみですね」紘一は言った。

「はい」源蔵は、微笑んだ。「田邊様のおかげです」

「いえ、皆さんの努力です」

その日の夕方、田植えが終わった後、農民たちが紘一を囲んだ。

「田邊様、今年も、ご指導をお願いします」

「もちろんです」紘一は答えた。「困ったことがあれば、いつでも言ってください」

農民たちは、深く頭を下げた。

紘一は彼らの顔を見た。希望に満ちた顔。去年よりも、明るい顔。

それが、紘一に大きな喜びを与えた。

人々の生活が、少しずつ良くなっている。それを実感できる。それが、紘一がこの時代で生きる意味だった。


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