十二、帰還と報告—広綱の決断
翌日、紘一は稲葉山城を後にした。
帰路、伊藤が尋ねた。「田邊殿、道三様と、何を話されたのですか」
紘一は道三の提案を説明した。
伊藤は、しばらく考えてから言った。「難しい選択ですな」
「はい」
「利益は大きい」伊藤は、分析した。「神崎家にとって、米百俵は大きい。そして、道三様との関係強化も、重要だ」
「ですが、リスクもあります」紘一は続けた。
「その通り」伊藤は、頷いた。「道三様に近づきすぎれば、他の領主から警戒される」伊藤は、続けた。「そして、道三様が失敗すれば、神崎家も巻き込まれる」
紘一は伊藤の言葉を噛みしめた。
平吉も意見を述べた。「でも、田邊さん、断ることもできないんじゃないですか」
「どういうことだ」
「道三様の要請を断れば、道三様の機嫌を損ねます」平吉は心配そうに言った。「それは、神崎家にとって、危険じゃないですか」
紘一はその通りだと思った。道三の要請を断ることは、道三を敵に回すことにもなりかねない。
「難しいな……」紘一は呟いた。
二日間の旅を経て、一行は神崎領に戻った。
広綱に、すぐに報告した。
「殿、会合は成功しました」紘一は詳しく説明した。三人の領主を説得したこと。道三の同盟が成立したこと。
広綱は満足そうに頷いた。「よくやった、田邊」
「ですが、道三様から、新たな提案がありました」紘一は道三の提案を説明した。
広綱は真剣な顔で聞いていた。そして、しばらく沈黙した。
「殿、どう思われますか」紘一は尋ねた。
広綱は立ち上がって、窓の外を見た。しばらく黙っていた。
やがて、広綱が口を開いた。
「田邊、お前は、どう思う」
「私は……」紘一は正直に答えた。「利益は大きいと思います。ですが、リスクも大きい」
「その通りだ」広綱は頷いた。「だが、わしは、受け入れるべきだと思う」
「本当ですか」
「ああ」広綱は振り返った。「理由は、三つある」
広綱は指を折りながら説明した。
「一つ、経済的利益。米百俵は、神崎家にとって大きい」広綱は続けた。「二つ、政治的地位。道三様との関係強化は、神崎家の安全につながる」
「三つ目は」
「お前の成長だ」広綱は微笑んだ。「お前は、外交の才能がある。それを、もっと伸ばすべきだ」広綱は続けた。「道三様の下で学べば、お前はさらに成長する」
紘一は広綱の言葉に、感動した。
「ですが、リスクは」
「リスクは、常にある」広綱は真剣に言った。「だが、リスクを恐れていては、何もできない」広綱は窓の外を見た。「小さな領主が生き残るには、大きな大名と協力するしかない」
広綱は紘一を見た。
「田邊、道三様の提案を受け入れろ」広綱の声は、決意に満ちていた。「そして、神崎家のために、働いてくれ」
「はい」紘一は深く頭を下げた。「承知しました」




