十一、会合後の評価—道三の真意と新たな役割
会合が終わった後、道三は紘一を個室に呼んだ。
小さな書院。前回も来た部屋だった。窓からは、城下町が見渡せる。初夏の日差しが、部屋を明るく照らしている。
道三は窓際に立っていた。背中を向けたまま、口を開いた。
「田邊、見事だった」
「ありがとうございます」紘一は頭を下げた。
道三は振り返った。その顔には、満足そうな笑みがあった。
「特に、氏家を説得したのは、素晴らしかった」道三は紘一に近づいた。「あの男は、頑固だ。誰の下にもつきたくないと、長年言い続けてきた」道三は続けた。「だが、お前は、『同盟者』という形を提示した。それが、氏家の心を動かした」
紘一は謙虚に答えた。「氏家様の求めるものを理解し、それを満たす方法を提示しただけです」
「その『理解』が、難しいのだ」道三は座るように促した。
二人は、向かい合って座った。
「田邊」道三が真剣な顔で言った。「お前に、頼みたいことがある」
「何でしょうか」
「今後も、わしの外交を手伝ってほしい」道三の目には、期待があった。「美濃の統一には、まだ多くの領主を説得しなければならない」道三は続けた。「お前の力が、必要だ」
紘一は予想していた提案だった。だが、同時に、慎重にならなければならないとも思った。
「道三様」紘一は言った。「私は、神崎家の家臣です」
「分かっている」道三は頷いた。「だからこそ、神崎家の代表として、わしの外交を手伝ってほしい」
「神崎家の代表として、ですか」
「そうだ」道三は説明した。「お前が、神崎家を離れることは、求めない」道三は続けた。「ただ、必要な時に、神崎家から派遣されて、わしを手伝ってほしい」
紘一はその提案を考えた。神崎家を離れるわけではない。あくまで、神崎家の立場で、道三を手伝う。それなら、受け入れられる。
「広綱殿には、わしから話をする」道三は続けた。「そして、お前を派遣してもらうたびに、神崎家に報酬を払う」
「報酬、ですか」
「そうだ」道三は具体的に言った。「一回の外交につき、米五十俵。そして、成功すれば、さらにボーナスとして五十俵」
紘一は驚いた。一回で五十俵。成功すれば百俵。それは、神崎家にとって、大きな収入だった。
「それだけではない」道三は続けた。「神崎家の地位も、上がる」道三の目が、鋭くなった。「わしの外交を手伝う神崎家。それは、わしの信頼を得ている証だ」
紘一は道三の意図を理解した。これは、神崎家にとって、大きなチャンスだ。経済的にも、政治的にも。
だが、同時に、危険もある。道三に近づきすぎれば、利用される。そして、他の領主からの嫉妬も買う。
「少し、考える時間をいただけますか」紘一は言った。
「もちろんだ」道三は頷いた。「だが、長くは待てない。一週間以内に、返事をくれ」
「承知しました」
紘一は部屋を出た。
廊下を歩きながら、紘一は考えた。この提案を、受け入れるべきか。
利益は大きい。だが、リスクも大きい。
紘一は広綱に相談する必要があると思った。最終的な判断は、広綱が下すべきだ。




