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八、能力の応用—医療への活用と慎重な実践

会合の準備を進める中、紘一はもう一つの課題にも取り組んでいた。

新しい能力—描いたものが現実になる能力—を、医療に活用できないか。

ある日、紘一は宗安医師を訪ねた。宗安は、この地域で唯一の医師だった。七十歳近い老人だが、まだ現役で診療を続けている。

宗安の家は、隣村にあった。小さな茅葺き屋根の家で、入口には「医」という文字が書かれた札が掛けられていた。

「宗安先生、いらっしゃいますか」紘一は戸を叩いた。

「はい、どうぞ」中から、老人の声が聞こえた。

紘一が中に入ると、宗安が座っていた。白髪で、皺だらけの顔だが、目には知性の光があった。

「おお、田邊殿。どうされました」宗安は、紘一を見て微笑んだ。

「先生、少しご相談があります」

「何でしょうか」

紘一は座った。「先生、この地域で、最も不足している薬は何ですか」

宗安は、少し考えてから答えた。「そうですな……解熱剤と、痛み止めです」

「解熱剤と痛み止め……」

「はい」宗安は、説明した。「高熱が出た時、それを下げる薬が必要です。ですが、その薬は高価で、なかなか手に入りません」宗安は、続けた。「痛み止めも同様です。怪我をした時、痛みを和らげる薬が必要ですが、それも手に入りにくい」

紘一は頷いた。「その薬は、どこから手に入れるのですか」

「主に、京や大坂から取り寄せます」宗安は、答えた。「ですが、時間もかかりますし、費用も高い」

「薬草から作ることはできないのですか」

「できますよ」宗安は、頷いた。「ですが、その薬草も、この地域では手に入りにくいのです」

「どんな薬草ですか」

宗安は、立ち上がって、棚から古い書物を取り出した。薬草の図鑑だった。ページをめくり、ある薬草を指差した。

「これです。名を柳の皮と言います」宗安は、説明した。「この皮を煎じて飲むと、解熱効果があります」

紘一はその薬草の絵を見た。柳の木の皮。細長く、茶色い。

「この薬草は、どこで手に入りますか」

「川沿いに生えている柳の木から取れます」宗安は、答えた。「ですが、この地域の柳の木は、あまり大きくありません。皮を取りすぎると、木が枯れてしまいます」

紘一は理解した。つまり、薬草は存在するが、量が不足しているのだ。

「分かりました。ありがとうございます」紘一は立ち上がった。

「何か、お考えがあるのですか」宗安は、興味深そうに尋ねた。

「少し、試してみたいことがあります」紘一は曖昧に答えた。

宗安の家を出た後、紘一は考えた。

柳の皮を、描いて現実化できないか。

もし、できれば、薬の供給問題が解決する。多くの人を助けられる。

だが、慎重にならなければならない。薬は、人の命に関わる。もし、描いた薬草に効果がなかったら。あるいは、有害だったら。

紘一はまず小規模に試すことにした。

その夜、紘一は部屋で、柳の皮を描いた。宗安の図鑑で見た通りに、細長く、茶色い皮を、丁寧に描く。

絵が完成した。

紘一は念じた。

絵が光り、机の上に本物の柳の皮が現れた。

紘一はそれを手に取った。確かに、柳の皮のようだ。質感、色、すべてが本物に見える。

だが、これが本当に薬効があるのか。それを確かめる必要がある。

紘一は翌日、再び宗安を訪ねた。

「先生、これを見ていただけますか」紘一は柳の皮を差し出した。

宗安は、それを手に取って、観察した。匂いを嗅ぎ、質感を確かめた。

「これは……柳の皮ですね」宗安は、驚いた顔をした。「どこで手に入れましたか」

「それは……秘密です」紘一は曖昧に答えた。「ですが、これが本物の柳の皮かどうか、確認していただけますか」

宗安は、さらに詳しく観察した。そして、頷いた。「本物です。間違いありません」

「薬として、使えますか」

「使えます」宗安は、断言した。「これを煎じれば、解熱剤になります」

紘一は安堵した。描いた薬草が、本物だった。薬効もある。

「先生、もし、この薬草を、定期的に提供できるとしたら、どうですか」

宗安の目が、輝いた。「本当ですか。それは、素晴らしい」宗安は、興奮した様子で言った。「この薬草があれば、多くの患者を助けられます」

「では、定期的に提供します」紘一は約束した。「ただし、この薬草の入手経路については、秘密にしてください」

「分かりました」宗安は、頷いた。

こうして、紘一は能力を医療に活用し始めた。

だが、慎重だった。一度に大量の薬草を提供するのではなく、少しずつ提供した。そして、その効果を確認しながら、進めた。

数週間後、宗安から報告があった。

「田邊殿、あなたが提供してくれた薬草で、多くの患者が助かりました」宗安の顔には、感謝があった。「高熱で苦しんでいた子供が、回復しました。怪我で痛みに苦しんでいた男が、楽になりました」

紘一は胸が熱くなった。自分の能力が、人々を助けている。それが、何より嬉しかった。

だが、同時に、恐れもあった。この能力が知られれば、どうなるか。利用されるかもしれない。恐れられるかもしれない。

紘一はさらに慎重になった。薬草の提供は続けるが、決して能力のことは明かさない。宗安にも、詳しいことは話さない。

ただ、静かに、人々を助け続ける。それが、紘一の選択だった。


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