鑑定×真価
35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。
名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、
世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。
地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。
そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。
村の道は静かで、
西日が傾き始め、影が長く伸びていた。
エリックとリリアは並んで歩き、
ほどなくして木造の小さな店の前に着いた。
看板には、手書きで「道具屋」。
リリアが扉を軽く叩くと、
中から年配の男が顔を出した。
「お、リリアか。こんな時間に珍しいな」
エリックは一瞬だけ違和感を覚えた。
(……王女って言ってたけど、
村長もこの人も“リリア”って呼び捨てなんだよな。
そういう事情があるのかもしれない)
リリアは気にした様子もなく答える。
「鑑定用の道具をお借りしたいのです。
簡易のもので構いません」
「鑑定? ほう……まあいい、ちょっと待ってな」
店主が扉を開けると、
エリックは店内へ足を踏み入れた。
店内は広くはないが、
棚がいくつも並び、
用途の分からない道具が雑多に置かれていた。
- ガラス瓶に入った薄い色の液体
- 金属の枠に石のようなものがはめ込まれた“灯りらしき”道具
- 麻袋に詰められた乾いた草
- 使い古されたロープや小型の刃物
どれも見たことのない形で、
エリックには用途がまったく分からない。
棚の上には薄く埃が積もり、
床板は歩くたびにきしむ。
(……本当に、普通の村の道具屋って感じだ)
店主は奥へ引っ込み、
しばらくして掌サイズの透明な石を持って戻ってきた。
「ほれ、“鑑定石”だ。
触れりゃスキル名とランクが浮かぶ。
まあ、村の安物だがな」
石は内部に細い亀裂が走っており、
光にかざすと淡く反射する。
リリアがエリックに視線を向ける。
「エリックさま。
左手を、そっと石に触れてみてください」
エリックは息を整え、
左手を鑑定石へ近づけた。
石に触れた瞬間――
淡い光が浮かぶはずだった。
しかし、
何も起きない。
沈黙。
石はただの石のように、微動だにしない。
店主が眉をひそめた。
「……あれ?
おかしいな。壊れてるわけじゃねえんだが」
リリアも石を覗き込み、
静かに首を傾げる。
「反応が……ありませんね。
まったく、というのは珍しいです」
エリックの胸がざわつく。
(スキルが……ない?
いや、でも……この印は……
何かあるはずだろ……)
店主は腕を組み、
鑑定石を軽く叩いてみる。
「普通は、ノーマルでもレアでも、
何かしら光るんだがな。
完全に無反応ってのは……」
リリアが小さく息を吸った。
「村の簡易鑑定では限界がありますね。
王都の“鑑定院”なら、
もっと精密な鑑定が可能です」
店主も頷く。
「そうだな。
ここから歩きで半日ってところだが、
行く価値はあるだろうよ」
(……半日。
思ったより近いんだな、王都って)
リリアはエリックの方へ向き直る。
「エリックさま。
王都までご同行いただけますか?
鑑定院なら、必ず何か分かります」
エリックは迷ったが、
結局、答えはひとつだった。
「……分かりました。お願いします」
リリアはほっとしたように微笑む。
「ありがとうございます。
では、出発は明日にしましょう。
私は村長へ挨拶に行ってまいります」
「僕は……荷物を確認しておきます」
「はい。離れでお待ちください」
二人は店主に礼を述べ、
店を後にした。
離れに戻ると、
リリアは村長のもとへ向かい、
エリックは簡単な荷物をまとめた。
今日は、
この世界に来てから怒涛のように色々なことがあった。
ベッドに横になると、
思考はすぐに途切れ、
そのまま深い眠りに落ちていった。
そして翌朝――
エリックは、王都へ向かう準備を整えて目を覚ました。
読んでいただき、ありがとうございます。
名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




