紺の衣装 × 告白
35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。
名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、
世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。
地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。
そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。
コン、コン。
静かな離れに、扉を叩く小さな音が響いた。
「エリックさま、起きていますか?」
リリアの声だ。
俺は慌てて鏡から離れ、扉を少しだけ開けた。
「……リリア?」
「様子を見に来ました。それと……こちらを」
リリアが両手で抱えていたのは、
紺色を基調にした、上品な服だった。
刺繍が控えめに入っていて、村の服より明らかに質がいい。
「エリックさまの服……その、今の黒い服は目立ってしまうので。
私の家にあったものですが、サイズは近いと思います」
(リリアが……用意してくれたのか。
こんなに綺麗な服を……)
「ありがとう。助かるよ。
ちょっと着替えるから、そこで待っててくれる?」
「はい。外でお待ちしますね」
リリアは扉の前で軽く会釈し、外へ下がった。
服を広げてみると、
紺の生地は柔らかく、軽いのにしっかりしている。
袖や襟のラインも綺麗で、
“村の服”というより“どこかの良家の普段着”に近い。
(……こんなの着て大丈夫か……?
いや、スーツよりは絶対にマシだな……)
着替えてみると、意外にも体にしっくり馴染んだ。
鏡を見ると、さっきの“新しい俺”の姿に、
この服が妙に似合っている。
(……なんだこれ……
俺、普通にイケてるやつみたいじゃん……)
深呼吸して気持ちを整え、扉を開けた。
「リリア、入っていいよ」
「失礼します……」
リリアが部屋に入った瞬間、
彼女の瞳がわずかに見開かれた。
「……とても、お似合いです」
その言葉に、胸が少しだけ熱くなる。
落ち着いてリリアを見ると、
改めて気づく。
(……この子……めちゃくちゃ可愛い……
いや、可愛いどころじゃない。
美人で、スタイルも良くて……)
そして、視線が自然と彼女の服装へ移った。
白を基調とした軽装。
肩から背中にかけては深紅のショートマント。
胸元には見たことのない紋章。
腰には細身の剣と、淡く光を帯びた杖のようなもの。
(……これ、村の普通の服じゃないよな。
武器まで持ってるし……
どう見ても“ただの村娘”じゃない。
むしろ……どこかの高い身分の家の娘か、
特別な役目を持つ人間にしか見えない……)
顔立ちや雰囲気だけじゃない。
身に着けているものからも、
おそらく高貴な出であることが伺える。
リリアの美貌に内心テンションが爆上がりしているのに、
表情は必死に平静を保つ。
「ありがとう。
……少し時間が経って、気持ちも落ち着いてきたよ」
リリアは安心したように微笑んだ。
そして、少しだけ真剣な表情になった。
「……あの、エリックさま。
無理に答えなくてもいいのですが……」
言葉を選ぶように、ゆっくり続ける。
「エリックさまは……
どこで倒れていたのか、覚えていらっしゃいますか?
その……本当に記憶がないのか、気になって……」
(……そう来るか。
“どこから来たのか”じゃなくて、
俺の負担にならないように、まず“覚えているかどうか”から聞いてくれる……
この子、本当に優しいな……)
俺は少しだけ視線を落とした。
(……話すべきか……?
こんな話、信じてもらえるのか……?
いや、そもそも俺は……
この状況を誰にも話さずに生きていけるほど強くない)
リリアの瞳は、
疑いではなく、ただ心配している色だった。
(……この子なら……話してもいいかもしれない)
腹をくくる。
「……信じてもらえるか分からないけど、
全部話すよ」
リリアは黙ってうなずく。
俺は深く息を吸い、
草原で目覚めた瞬間から語り始めた。
「気づいたら……草原に倒れていたんだ。
本当に、何も覚えていなかった。
でも……その直前に、ひとりの存在と会っていた気がする」
リリアが小さく息をのむ。
「……存在、ですか?」
「創造神を名乗る人物だ。
名前は——アストレア。
俺がいた世界とは違う場所で……
“転生”を告げられた」
リリアの瞳が揺れた。
だがそこに恐れはない。
むしろ——
期待に満ちた光が宿っていた。
「……創造神アストレアさまに……会われたのですか……?」
その声は震えていたが、
それは恐怖ではなく、
“何かが始まる予感”に震える声だった。
「そして……左手に刻まれた、この印も」
俺は手の甲を見せた。
リリアは息を呑み、
その刻印をじっと見つめた。
「……本当に……アストレアさまが……」
その表情は、
驚きと、感動と、期待が混ざったような——
まるで“奇跡を目の前にした人間”の顔だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




