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35歳社畜の俺、異世界で名刺管理システムがウルトラレアスキルとして覚醒し、世界の命運を託されることになる  作者: それがし
1章

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3/11

安息の村 × 映し出された変貌

35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。

名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、

世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。

地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。

そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。


 リリアに肩を貸されるようにして歩き出した。

 気が動転していたせいで、彼女が差し出した手をそのまま握ってしまったらしい。

 温かい。

 細い。

 柔らかい。


(……あれ……?

 俺、今……手、つないでる……?)


 だが、魔物から逃げた直後で頭が回らず、

 そのまま数分ほど歩いてしまった。

 草原の向こうに木の柵が見え始めた頃、

 ようやく呼吸が落ち着いてくる。


 そして——

 自分の右手に伝わる感触を、はっきりと意識した。


(……ちょ、ちょっと待て……

 俺、こんな美少女と……手……つないで……)


 心臓が跳ねた。


「っ……!」


 反射的に手を放してしまう。

 リリアが驚いたように振り返った。


「あ……すみません……!

 その……助けてもらって……気が動転してて……」


 自分でも何を言っているのか分からない。

 顔が熱い。

 だがリリアは、ふわりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。

 歩けるなら、もう手は必要ありませんね」


 その優しさが逆に恥ずかしい。


「村はすぐそこです。

 もう少しだけ頑張りましょう」


 俺は小さくうなずき、彼女の後を追った。




 木の柵と石造りの門が近づいてくる。

 門の前には槍を持った男が立っていた。


「おお、リリアか。戻ったのか」

「はい。ちょっと魔物が出たので……」


 男は俺を見て、目を丸くした。


「……そいつは?

 なんだその黒い服……?

 見たこともない格好だな」


(……黒い服……?

 あ、これ……スーツか……

 そうだ、俺……仕事帰りだった……

 なんで今まで気づかなかったんだ……)


 ようやく自分が“異世界にスーツ姿でいる”という異常さを理解した。


「道で倒れていたんです。怪我はなさそうでしたけど」

「ふむ……旅人にしては変わった格好だな。


 村長のところへ連れていくといい」

 リリアに案内され、村の中心へ向かう。

 木造の家が並び、人々が行き交い、子どもたちが走り回っていた。

 その中で、スーツ姿の俺は完全に浮いていた。


(……本当に異世界なんだな……

 生活感が……現実と違いすぎる……)


 やがて、村の中心にある大きな家に着いた。


「村長さんの家です。事情を話しておきますね」


 中に入ると、白髪の老人が椅子に座っていた。

 落ち着いた目をした、威厳のある老人だ。


「リリアか。無事で何よりじゃ」

「はい。この方を保護しました」


 老人は俺をじっと見たあと、ゆっくりと名乗った。


「わしはエルド村の村長、ガルド・エルドランじゃ。

 まずは……そなたの名を聞いてもよいか?」


「……エリック。

 エリック=ハーバントです」


 ガルド村長は軽くうなずき、問いを重ねた。


「エリックよ。

 どこから来た? その黒い服は見たことがない。

 旅人にしては荷物も持っておらんようじゃが……」


(……そりゃそうだよな……

 スーツで異世界に来たなんて言えない……)


「……気づいたら草原に倒れていて……

 正直、よく覚えていません」


 ガルド村長は眉をひそめた。


「記憶が曖昧……か。

 では、行く当てはあるのか?

 誰かを訪ねて来たのか?」

「……いえ。

 どこに向かうつもりだったのかも……分かりません」

 

 老人はしばらく俺を観察した。

 疑っているというより、

 “混乱している人間をどう扱うか”を考えている目だった。


 リリアが補足する。


「魔物に襲われていました。

 怪我はありませんでしたが……

 衰弱しているようでした」


 ガルド村長は深く息をついた。


「ふむ……嘘をついている様子ではないな。

 事情は複雑そうじゃが……

 今は追及しても仕方あるまい」


 そして、少し柔らかい声で続けた。


「ちょうど離れの部屋が空いておってな。

 二、三日なら滞在してよい。

 その間に、そなた自身の状況を整理するがよい」


(……助かった……

 行く当てもないし……

 スーツで野宿とか絶対無理だし……)


「ありがとうございます。本当に……」

「礼はいらん。

 ただし、村の規律は守るのじゃぞ。

 何かあればリリアに相談するとよい」


 リリアが小さくうなずいた。


「私もできる限りお手伝いします」


 その言葉が妙に温かかった。




 案内された離れの部屋に入り、

 スーツのまま床に座り込む。


(……落ち着いた……

 でも、さっきの現象ってなんだったんだ……)


 草原で倒れていたとき、

 確かに“何か”が見えた。

 透明な立体パネルのようなものが、

 俺の目の前に浮かんでいた。


 ふと、左手に違和感を覚えた。

 手の甲に視線を落とす。


「……え?」


 そこには、見覚えのありすぎるマークが刻まれていた。

 ——名刺管理アプリのアイコン。

 現実世界で毎日使っていた、

 あのアプリのロゴが、

 まるで焼き印のように皮膚へ刻まれている。


(なんで……こんなところに……?

 てか、これ……どう見てもアプリの……)


 恐る恐る、右手をその刻印へとかざす。


「……カードレジスタリー」


 小さくつぶやいた瞬間——

 空気が震えた。

 左手の甲が淡く光り、

 その光が空中へ走るように広がっていく。

 次の瞬間、

 透明な立体パネルが“音もなく”浮かび上がった。


 《転生者ログインモード:起動中》

 Magic。

 Item。

 Summon。

 名刺にランク。

 レア度。

 変換魔法。


(……俺は……本当に転生したのか……?

 このアプリは……何なんだ……?)


 しばらく画面を見つめ続けたあと、


 頭を振って立ち上がる。


(……ダメだ。

 一回、顔洗って落ち着こう……)


 部屋の隅にあった水桶で顔を洗う。

 冷たい水が気持ちいい。

 ふと、壁に掛けられた金属の鏡が目に入った。

 何気なく覗き込んだ瞬間——

 息が止まった。


「……は?」


 鏡の中の男は、俺じゃなかった。

 いや、俺なんだけど……

 俺じゃない。

 身長が……高い。

 165センチだったはずなのに、

 どう見ても180センチ近くある。

 顔も——

 普通レベルだったはずが、

 そこそこ整った“イケメン”になっていた。


「……いやいやいやいや……

 誰だよこれ……!」


 鏡の中の“新しい俺”が、

 信じられないというように目を見開いていた。


(……転生って……

 こういうことなのか……?)


 胸の奥がざわつき、

 現実感がさらに遠のいていく。


 その時——

 コン、コン。

 静かな離れに、

 扉を叩く小さな音が響いた。


読んでいただき、ありがとうございます。


名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

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