異世界転生 × 名刺管理アプリ × 美少女
35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。
名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、
世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。
地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。
そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。
意識が浮上した瞬間、胸の奥がざわついた。
空気が違う。
匂いが違う。
光の質まで、現実とは微妙にズレている。
湿った土の匂いがやけに鮮明で、
風が肌を撫でる感覚が妙に軽い。
耳に届く鳥の声も、どこか音程が不自然だ。
視界いっぱいに草原が広がっていた。
見慣れたはずの景色なのに、
色が濃すぎて、輪郭がくっきりしすぎている。
まるで現実とゲームの中間みたいな、
そんな不気味な鮮明さ。
「……ここ、本当に地球か……?」
手を見る。
細い。
軽い。
十代後半の身体。
「いやいやいや……なんで若返ってんだよ……」
そのとき、草むらがガサッと揺れた。
低い唸り声。
獣のような気配。
「……嫌な予感しかしない……」
黒い影が飛び出した。
牙をむいた魔物。
狼に似ているが、明らかに“違う”。
「いやいやいやいや!!
なんで狼がデカいんだよ!!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
全力で逃げたが、足がもつれて転ぶ。
魔物が飛びかかってくる。
「終わった……!」
その瞬間、空間が震えた。
目の前に、透明な立体パネルが浮かび上がる。
見覚えのある画面だった。
「……名刺管理アプリ……?
なんでここで……?」
そこに表示されたのは、
実世界で使っていたログイン画面とまったく同じデザイン。
ただ、一点だけ違う。
《《Card Registry》転生者ログインモード:起動中》
「いやいやいやいや!!
なんだよこれ!!
俺、転生者って公式扱いなのかよ!!」
魔物は迫ってくる。
とにかくログインするしかない。
震える指で画面をタップした。
ログイン成功の音が鳴り、
名刺一覧が光とともに展開される。
現実には存在しなかったタブがあった。
《Magic / Item / Summon》
「……は?
マジック? アイテム? サモン?
いやいやいや、意味わからん……!」
恐怖と混乱で頭が回らない。
とにかく魔物から逃げるため、
“Magic”タブを選んだ。
《名刺データ:トヨカ自動車・生産技術部・佐伯課長》
ランク:R4(マスター)
レア度:C5(レジェンダリー)
変換魔法:《オートマチック・フォーメーション》
威力:大+(固有効果付き)
「……え、ちょっと待て。
ランク? レア度? レジェンダリー?
名刺にこんな評価ついてたか……?」
「てか俺、この“佐伯課長”って人の顔すら知らないんだけど……
なんで名刺がゲームみたいになってんだよ……?」
魔物が迫る。
「……くそっ、もうやるしかない!」
震える指で名刺をスワイプした。
光が弾ける。
魔物の動きが一瞬止まり、
俺の身体が勝手に動き出す。
避ける。
転がる。
立ち上がる。
「な、なんだこれ……!?
俺、こんな動きできるわけ……!」
まるで“最適化された動線”を誰かに操られているような動きだった。
魔物は空振りし、バランスを崩す。
俺はその隙に逃げ出した。
息を切らしながら、立体パネルを見る。
《スキル使用完了 クールタイム:5分》
「……これが……俺の……名刺管理……?」
胸の奥がざわつく。
(……いや、あれ絶対普通じゃなかった……
ログイン画面も変だったし……
MagicとかItemとか……
名刺にランクとかレア度とか……
意味が分からなさすぎる……)
(あれ……本当に俺のアプリだったのか……?
それとも……この世界の何かが勝手に変えた……?)
考えても答えは出ない。
ただ、異常だったことだけは確かだ。
そのとき、背後から声がした。
「だ、大丈夫ですか……!?
怪我はありませんか……?」
振り向くと、
一人の美少女が心配そうに駆け寄ってきた。
栗色の髪が風に揺れ、
琥珀色の瞳が不安げに揺れている。
白を基調とした軽装に、深紅のショートマント。
胸元には見たことのない紋章。
腰には細身の剣と、淡く光る杖のようなもの。
(……何者だ、この子……?
剣と杖って……どういう装備だよ……)
少女は俺のそばにしゃがみ込み、
そっと手を差し伸べてきた。
「立てますか?
無理しないでください。
さっきの魔物、もう遠くへ行きましたから……」
その声は震えていた。
本気で心配してくれているのが分かる。
俺はその手を取って立ち上がった。
「……あ、ありがとう……」
美少女はほっと息をついた。
「この辺りは危険なんです。
村はすぐそこなので、よければ一緒に来てください」
歩き出してしばらくして、
少女がようやく口を開いた。
「そういえば……
私はリリアと申します。
あなたは……?」
喉がひゅっと鳴った。
「さ……さ……」
言おうとした瞬間、
頭の奥に“別の名前”が浮かんだ。
(……エリック……?
なんで……?)
気づけば口が勝手に動いていた。
「……エリック。
エリック=ハーバント、だ」
リリアは安心したように微笑んだ。
「エリックさまですね。
よろしくお願いします」
(……この世界の人って、こういう名前なのか……
てか、何も分からん……
全部が未知すぎる……)
もちろん、
彼女が何者なのかなんて、
この時点で知る由もない。
読んでいただき、ありがとうございます。
名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




