アイテム×召喚×魔導士
35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。
名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、
世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。
地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。
そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。
巨大な火球が霧散してからも、
部屋にはしばらく熱気が残っていた。
ガルドは額の汗を拭い、
震える指で髭を撫でながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……ふぅ。
エリック殿、今の魔法は……あまりにも規格外じゃ。
まずは落ち着いて、状況を整理せねばならん」
リリアも胸に手を当てて頷く。
「はい……! 本当に心臓に悪かったです……」
エリックは浮かぶ画面を見つめた。
そこには、
【Magic】【Item】【Summon】
の三つのアイコンが並んでいる。
「……このスキル、魔法だけじゃなくて、
アイテムと……召喚まであるのか」
ガルドが画面を覗き込み、目を細めた。
「む……?
三つの術式が並んでおる……?
こんな構造、わしは見たことがないぞ……」
リリアが不安そうに呟く。
「三つとも……別の力なんでしょうか……?」
ガルドは慎重に頷いた。
「ふむ……まずは一つずつ確かめるしかあるまい。
魔法は危険すぎるし、召喚は未知すぎる。
となれば――」
ガルドは指を立てた。
「“道具”が一番安全じゃろう。
まずは【Item】から試すのが妥当じゃ」
エリックは頷き、【Item】をタップした。
《使用する名刺データを検索してください》
「……被害が出ないもの……。
そうだ、ポーションなら安全ですよね」
エリックは口にした。
「ポーション」
《音声入力を認識しました》
《該当する名刺データ:412件》
「よ、四百……!?」
リリアが目を丸くする。
「ポーションって、そんなに種類があるのですか……?」
エリックは肩をすくめた。
「いや、俺の世界にはポーションなんてないですけど……
“医薬品”とか“健康食品”とか、そういう会社の名刺が反応してるんだと思います」
ガルドが画面を覗き込み、
目を細めて唸った。
「ふむ……“癒し”や“回復”に関わる概念が、
この世界ではポーションとして扱われるわけじゃな。
ならば、確かに安全じゃろう」
エリックは一覧をスクロールし、
一番効能が弱そうな名刺を選んだ。
《株式会社ミドリ薬草研究所
品質管理課 アシスタント
山根 綾》
タップすると、解析表示が展開される。
◆名刺データ解析(Item)
《企業ランク:Common コモン》
《役職ランク:第六階位 Normal ノーマル ※アシスタント》
《業種:薬草・医薬品(基礎回復)》
《アイテムカテゴリ:回復薬(Healing Item)》
《アイテム名:ライトヒールポーション》
「……これなら弱い回復アイテムっぽいですね」
エリックが呟き、「YES」を押した。
次の瞬間――
空中に淡い光が集まり、
小瓶が“ぽんっ”と音を立てて現れた。
リリアが息を呑む。
「えっ……!? い、今……空中から……?」
ガルドは目を見開き、後ずさった。
「な、な……なんじゃと……!?
物が……“生まれた”……?
こ、これは……魔法ではない……
錬金術でもない……
“物質顕現”など、この世に存在せんはずじゃ……!」
エリックはそっと手に取った。
掌に収まる、小さな淡緑色の液体。
ラベルには見慣れた文字が浮かんでいる。
《ライトヒールポーション
— ミドリ薬草研究所 試供品 —》
「……試供品って……
いや、現実の会社のノリがそのまま出てる……」
ガルドは震える手で瓶を指差す。
「エリック殿……!
これは……“理の外側”の力じゃ……!」
リリアはまだ信じられない様子で瓶を見つめている。
エリックは蓋を開け、一気に飲み干した。
ひんやりとした感触が喉を通り――
さっきの炎魔法の暴発で軽く火傷した手首の赤みが、すっと引いていく。
リリアが驚きの声を上げた。
「……治っていきます……!」
ガルドは震える声で呟いた。
「効能は弱いが……確かに“回復”じゃ……
札一枚で、ここまで正確な効果が……!」
そして――
ガルドの目がギラリと輝いた。
「エリック殿……!
これは……とんでもない可能性を秘めておる……!
他の札では、どんな現象が起きるのか……
わしは……知りたい……!」
リリアは苦笑いしながら、ガルドに視線を向ける。
(……ガルドさま、完全にテンション上がってる……
いつもは落ち着いてるのに……)
エリックも苦笑しつつ、
画面の【Summon】に視線を移した。
「……あの、ガルドさん。
この世界では“召喚”って普通なんですか?」
ガルドは勢いよく振り返った。
「普通ではない! だが存在はする!
魔獣を呼び出す召喚士や、精霊を呼ぶ霊術師はおるが……
“異世界の人物の札”から召喚など、聞いたことがないわ!」
リリアが補足する。
「召喚は、この世界に存在するものに限られます。
魔獣、精霊、契約した存在……そういうものです」
エリックは画面を見つめながら呟いた。
「じゃあ……俺の世界の人間を召喚したら、どうなるんだろう……?」
ガルドは震える。
「な、なんじゃと!?
そんなことが可能なのか!?」
エリックは肩をすくめた。
「いや、分かりませんけど……
試してみないと……」
ガルドは机を叩いた。
「試すのじゃ!!」
リリアが慌てて止める。
「ガルドさま、落ち着いてくださいってば!」
エリックは深呼吸し、
何気なく口にした。
「……サン・マサヨシ」
《音声入力を認識しました》
《該当する名刺データ:1件》
「……えっ?」
「サン・マサヨシって……
俺の世界でも“世界的企業のトップ”だぞ……?
なんで名刺データが……?」
そこで、ふと気づく。
(……そうか。
俺の勤め先は“五大総合商社”の一角。
あらゆる産業に参入してて、
世界的企業ともいくらでもつながりがある……)
(……つまり、
サン・マサヨシの名刺がデータベースにあっても不思議じゃない
ってことか……)
エリックは震える指で名刺データをタップした。
◆名刺データ解析(Summon)
《企業ランク:Legendary レジェンダリー》
《役職ランク:第一階位 Legend レジェンド ※代表取締役》
《業種:通信・投資・情報戦略》
《召喚カテゴリ:概念体(Concept Entity)》
《召喚体名:ティナ=フレアライト》
リリアが青ざめた。
「エ、エリックさま……
レジェンダリー × レジェンド……
この組み合わせは……“創世級”の召喚体です……!」
ガルドは震える声で叫んだ。
「ま、待て……!
これは軽々しく扱ってよい代物では――」
エリックは慌てて画面の「NO」を押そうとした。
その瞬間、視界がぐらりと揺れた。
(……うっ……?
なんだこれ……急に、足に力が……)
さっきの巨大魔法と、
見慣れないポーションを飲んだ影響か、
身体の奥からじわじわとした違和感が込み上げてくる。
足元がふらつき、
伸ばした指が大きくぶれて――
《YES》
「えっ、ちょっ――!」
光が爆ぜた。
空中に巨大な魔法陣が展開する。
リリアが悲鳴を上げて後ずさる。
ガルドは叫んだ。
「ば、馬鹿者ォォォ!!
創世級を誤操作で発動する奴がどこにおるんじゃああ!!」
エリックは涙目で叫ぶ。
「違うんです! よろけただけなんです!!」
魔法陣の中心から、
太陽のような光が弾けた。
光が収まると――
そこには、金と桃色のツインテールを揺らす少女が立っていた。
ライトブルーの瞳がきらりと光り、
ミニスカートの魔導士ローブと膝上のハイブーツが揺れる。
絶対領域が眩しいほどに映える。
「やっほーっ!
呼んでくれてありがと、エリック兄さまっ!」
エリックは固まった。
「え、えっと……君は……?」
少女は胸に手を当て、元気よく名乗った。
「わたしはティナ=フレアライト!
兄さまの未来を、ぴっかーんって照らす最強の魔導士だよっ!」
ガルドは膝を震わせながら後ずさった。
「な、なんじゃこの魔力……!?
規模が……わしの知識では測れん……!
こんな圧、生涯で一度も感じたことがない……!」
リリアは呆然と呟く。
「……かわいい……のに……
なんか……すごい……」
ティナはくるりと回り、
スカートとツインテールをふわりと揺らした。
「えへへ〜、兄さまのためにがんばるねっ!
魔法も、戦いも、なんでも任せてっ!」
エリックは頭を抱えた。
「……なんで美少女なんだ……?」
(サン・マサヨシって……
俺の世界じゃ、禿げたおじさんだったよな……?
なんでこうなるんだ……?)
ティナはにっこり笑った。
「だってそのほうが、兄さま嬉しいでしょ?」
ガルドが机を叩いた。
「なんじゃその合理性はあああああ!!」
リリアはその様子を見て、
深いため息をついた。
(……ガルドさま……
未知の体験が続きすぎて、
いつもの冷静さが完全に吹き飛んでる……
キャラ崩壊ってこういうことを言うのね……)
――こうして、
エリックの“カードレジスタリー”の真価は、
誰も予想しない形で明らかになりつつあった。
読んでいただき、ありがとうございます。
名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




