カードレジスタリー×能力
35歳の社畜が、名刺管理スキルを武器に異世界へ。
名刺から魔法・アイテム・キャラまで顕現できる《Card Registry》を手に、
世界の構造崩壊に立ち向かう物語です。
地味な名刺管理が、異世界では最強のチートになる。
そんな“構造×異世界ファンタジー”を楽しんでいただければ嬉しいです。
鑑定石の光が消え、部屋には重い沈黙が落ちた。
伝説級――ウルトラレア。
ガルド大鑑定師もリリアも、しばらく言葉を失っていた。
やがてガルドが、慎重に口を開く。
「……エリック殿。
スキルの詳細は“解析不能”と出ておるが、
ご自身で発動させることはできるのかの?」
「発動……ですか?」
「うむ。スキルによっては、言葉や意識で起動するものもある」
リリアがエリックに向き直る。
「エリックさま。試してみませんか?」
エリックは小さく息を吸い、
左手の甲に刻まれた“名刺管理アプリのロゴ”に視線を落とした。
現実世界で毎日見ていたロゴ。
それが今は、異世界の光に照らされて淡く輝いている。
(……これが、俺のスキルの核なんだな)
エリックは静かに呟いた。
「……カードレジスタリー」
その瞬間――
空中に淡い光が走り、透明なパネルがふわりと浮かび上がった。
「出ました……!」
リリアが息を呑む。
ガルドも目を細める。
「ふむ……これがスキルの顕現か」
画面には、次のように表示されていた。
《CARD REGISTRY》
《転生者モード》
【Magic】
【Item】
【Summon】
エリックは画面を見て、小さく息を吐いた。
「……やっぱり、この画面ですね」
リリアが首を傾げる。
「“転生者モード”というのは……?」
「俺が“別の世界から来た人間”だからだと思います」
リリアは静かに頷いた。
「ええ。エリックさまが異なる世界の方である証ですね」
その言葉に、ガルドが目を丸くした。
「べ、別の世界……?
転生者……とは?」
リリアがガルドに向き直り、簡潔に説明する。
「ガルドさま。
エリックさまは、異なる世界から来られた方なのです」
ガルドは息を呑んだ。
「なんと……!」
エリックは少し気まずそうに視線を落とした。
「……はい。そういうことみたいです」
エリックが画面を眺めていると、右上隅に小さな文字が目に入った。
【Manual】
「……こんな表示、さっきは気づかなかったな」
エリックがタップすると、マニュアル画面が切り替わる。
《CARD REGISTRY システム概要》
・本スキルは、名刺情報を“カード”として登録し、
【Magic】/【Item】/【Summon】の三系統の能力として使用できます。
・能力の威力および効果内容は、【企業ランク × 役職ランク】のマトリクスにより決定されます。
・【Magic】は、名刺情報に紐づく属性・業種・役職に応じた魔法として発動します。
・【Item】は、名刺情報に基づく道具・装備・補助効果として具現化します。
・【Summon】は、名刺情報に紐づく人物像・組織特性を反映した召喚体として顕現します。
・登録された名刺情報は、画面操作および音声入力により即時検索・発動が可能です。
・本システムは、現実世界の名刺管理システムと連動しており、
登録件数は現在【9529872件】。情報は常時更新されています。
・本システムは【転生者モード】により、異世界環境下でも自動適応されます。
「……九百五十二万件……?」
「現実世界の名刺管理システムと連動???…繋がっているのか…」
エリックは思わず声を漏らした。
「これ……俺の勤め先の名刺管理データですね……」
リリアが不思議そうに首を傾げる。
「エリックさま……“企業”とは何でしょう?
“会社”という言葉も、聞いたことがありません」
ガルドも頷く。
「名刺、というものも……わしらには馴染みがないの」
エリックは「ああ、やっぱりか」と小さく息をついた。
エリックは少し考え、二人に尋ねた。
「ガルドさん、リリアさん。
この世界には“商会”や“ギルド”みたいな、人が集まって活動する組織ってありますか?」
リリアが頷く。
「はい。商会もギルドも一般的です」
「なるほど……じゃあ説明しやすいです」
エリックは続けた。
「俺の世界で“会社”と呼ばれるものは、
それらと似た、人々が集まって働く組織のことなんです」
ガルドが興味深そうに身を乗り出す。
「ふむ……では、エリック殿もその“会社”に所属しておったのか?」
「はい。俺は“総合商社”と呼ばれる会社に勤めていました」
リリアが首を傾げる。
「総合……商社……?」
エリックは丁寧に説明した。
「簡単に言うと――
世界中のあらゆる物資を扱う巨大な商会 です。
武具、食料、金属、燃料……いろいろ扱っています」
リリアが息を呑む。
「世界中……ですか……」
ガルドも驚愕する。
「それは……もはや国家規模ではないか……」
ガルドが画面を覗き込みながら言った。
「ところでエリック殿……“名刺”とは何なのじゃ?
名前と役職が書かれておるようじゃが……紙札の一種なのか?」
エリックは「ああ、この世界に名刺の文化もないよな」と頷いた。
「名刺というのは、俺の世界で“自己紹介の札”みたいなものです。
初めて会う相手に、自分の名前や所属、役職を伝えるために渡すんです」
リリアが目を瞬かせる。
「自己紹介の……札、ですか?」
「はい。小さな紙に、名前や会社名、役職が印刷されていて、
仕事の場では必ず交換する習慣があります。
俺は“名刺管理の部門”にいたので、
こういう名刺の情報を大量に扱っていました」
ガルドが感心したように頷く。
「なるほど……人の情報を記した札を交換し、
それを管理する仕組みがあるのじゃな。
それがこのスキルの“素材”になっておるわけか……」
エリックは苦笑した。
「そういうことになりますね。
まさか異世界で魔法に変換されるとは思いませんでしたけど……」
更に、マニュアルを読み進めるとランクとそのマトリクス表の記載があった。
《企業ランク》
- Common:中小企業・個人事業 → 特殊効果なし
- Rare:中堅企業 → 効果量+小
- Epic:大企業 → 効果量+中、特殊効果付与
- Mythic:超大企業 → 効果量+大、固有魔法付与
- Legendary:世界的企業 → 効果量+特大、固有魔法+複合効果
《役職ランク》
- 第六階位:Normal……基本魔法
- 第五階位:Advance……応用魔法
- 第四階位:Expert……特化魔法
- 第三階位:Master……複数対象魔法
- 第二階位:Ultimate……広域・戦略級
- 第一階位:Legend……世界干渉級
《マトリクス表:企業R×役職R》
+────────────────────────────────+
| 企業R\役職R | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
+────────────────────────────────+
| Common | 基礎 | 基礎 | 基礎| 戦術| 戦術| 戦略 |
+────────────────────────────────+
| Rare | 基礎 | 戦術 | 戦術| 戦略| 戦略| 天災 |
+────────────────────────────────+
| Epic | 戦術 | 戦術 | 戦略| 戦略| 天災| 天災 |
+────────────────────────────────+
| Mythic | 戦術 | 戦略 | 戦略| 天災| 天災| 創世 |
+────────────────────────────────+
| Legendary | 戦略 | 戦略 | 天災| 天災| 創世| 創世(∞)|
+────────────────────────────────+
リリアが表を見て、息を呑む。
「……“天災級”“創世級”……
本当に、神話に出てくるような言葉ばかり……」
ガルドは、喉を鳴らした。
「この表が正しいのなら……
世界の均衡が変わりかねん……」
エリックは【Magic】をタップした。
《使用する名刺データを検索してください》
画面下部に検索窓が現れる。
エリックは、軽い気持ちで口にした。
「炎」
《音声入力を認識しました》
《該当する名刺データ:128件》
「……音声入力も問題なく動いてますね」
一覧の中に、見覚えのある会社名があった。
《斎藤忠商事 エネルギーソリューション本部
営業第三部 主任
黒川 雅臣》
エリックは小さく呟いた。
「……黒川さん。…ライバル企業の社員ってことしかわからない」
リリアが首を傾げる。
「お知り合いなのですか?」
「いえ、俺は“名刺管理の部署”だったので……」
ガルドが感心したように頷く。
「名だけでこれほどの情報が扱えるとは……
異界の技術は恐ろしいものじゃの」
エリックは黒川の名刺データをタップした。
《企業ランク:Mythic》
《役職ランク:第五階位 Advance※主任》
《業種:エネルギー(火力・燃料)》
《属性:火》
《魔法カテゴリ:炎術(Fire Arts)》
《推奨魔法:フレイム・ショット》
リリアが目を輝かせる。
「すごい……属性まで自動で判定されるのですね……!」
ガルドが、ふと首を傾げた。
「ところで……“主任”とは何の位なのじゃ?」
エリックは丁寧に答えた。
「俺の世界の会社における役職です。
簡単に言うと……“小さなチームのまとめ役”みたいな立場ですね」
リリアが補足する。
「この世界で言えば……班長のようなものですね」
ガルドはその説明を聞き、目を見開いた。
「班長程度の役職で……
企業ランクは“ミシック”……
マトリクス表では“戦略級”に片足突っ込んでおる……!」
ガルドが震える声で言うと、
エリックは画面を見つめながら小さく息を呑んだ。
「……ここまで来ると、実際に試してみたくなりますね」
その瞬間、画面が切り替わる。
《魔法を発動しますか?》
《YES / NO》
エリックは、反射的に答えてしまった。
「……はい。発動します」
その瞬間――
空気が震えた。
「っ……!」
リリアが反射的に後ずさる。
エリックの右手に、
圧縮された赤橙色の魔力が凝縮し、
小さな太陽のように輝き始めた。
「こ、これは……!」
エリック自身も、目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待って……!
“フレイム・ショット”って書いてありますけど……
これ、本当に“ショット”なんですか……!?」
ガルドが叫ぶ。
「エリック殿、すぐに放ちなされ!
そのままでは暴発するぞ!!」
「っ、了解です!」
エリックは慌てて手を前に突き出した。
次の瞬間――
轟音とともに、
直径一メートル近い炎の塊が射出された。
壁に直撃する直前、
魔力が自動的に霧散し、
熱風だけが部屋を吹き抜けた。
リリアの髪が大きく揺れる。
「ひゃっ……!」
ガルドは呆然と呟いた。
「……班長程度の役職で……これ……?
わしの長年の鑑定師人生で、
これほどの魔法を見たのは初めてじゃ……」
エリックは手を見つめ、青ざめた。
「……軽い気持ちで発動するものじゃなかったですね……」
だが、画面の奥に広がる可能性は――
確かに、現実を超えていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
名刺スキルが異世界でどう広がっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




