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雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第三章 嘘つきな彼女
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20話 勇気のある少年

「わたくしと綺羅、それと友里は幼馴染ですわ」

 

 南谷さんはそう言うと黙ってしまった。続きを語るつもりはないらしい。

 それもそうか。せっかく会えた幼馴染が、いじめをしていたことも、悪意がないとはいえ、自分もそれに加担しかけていたなんて、すぐには受け入れないだろう。

 

「綺羅と、友里……ショッピングセンターにいた人だよね? どっちがどっち?」

 

「ロングの方の人が東野友里で、ツインテールにしている方が西田綺羅だ。凛音の机に悪意のある言葉を書き込んだ……いや、落書きをしたのは、おそらく西田と……俺のクラスの前原だろうな」

 

 落書き。そんな幼稚な表現はしたくなかったが、直接的な表現をすると、凛音が顔を顰めた。

 

「うーん……でもさぁ、綺羅って太郎のクラスの人でしょ? 暇なのかなぁ」

 

「暇だとしてもやっていい事と悪い事はある。あいつら……凛音にまで手を出すなんて」

 

「待って――"凛音にまで"ってどういうこと?」

 

 凛音は目ざとく俺の呟きに反応した。しまった。迂闊なことを言ってしまった――そう思った。

 

 俺は、凛音にいじめられていることを伝えてない。前原たちのことは、「苦手なクラスメイト」と濁して表現しているし、屋上に来た理由も「なんとなく」と誤魔化していた。

 

 なんとか話を逸らさないかと試みるが、凛音だけではなく、南谷さんにまで険しい視線を向けられた。


 言いたくはない。でも、凛音に嘘をつき続けたくはなかった。胸がざわつき、逃げるように視線を落とした。

 

 ついに話す時が来たのかもしれない。俺は、言葉を探しながら言う。


「俺、実は前原のグループにいじめられているんだ」


 凛音は目を見開き、息を呑んだ。

 南谷さんは何かを感じたかのように目を細めた。いまいち感情が読めない。


「――いつから?」


「五月……いや、四月の終わり頃から。クラスで前原たちにいじめられている女子がいたんだ。俺は彼女を放って置けずに庇った。結果、いじめの標的は俺になった」


 今思えば、なぜ自分があんなことをしたのかわからない。高校生になりたての全能感か、はたまた偽善か。何にせよ、その時の俺は調子に乗っていたのは間違いない。


「結局、俺が庇った女子も不登校になってしまったし、俺のしたことは無駄だったんだけど、少なくとも標的は俺に逸らせた。そう思っていたんだけど……まさか、凛音に目をつけるなんて……本当にごめん」


 すると凛音は、何か言いたげに俺を睨んだ。急な重い話に嫌気が刺されたのかもしれない。

 ――また、後悔が胸に募った。


 だから、次に凛音が言ったことは、俺が想像もしていなかった言葉だった。


「なんで、太郎が謝るの? 太郎がしたことは無駄なんかじゃない。結果、その人が不登校になったとしても、間違ったことなんてしていない。


 誰かに手を差し伸べるのが間違いだなんて、私が認めない。その人も絶対、太郎に感謝しているに決まっている」


 意表をつかれ、俺は何も言うことができなかった。凛音の真っ直ぐな言葉に胸を打たれ、呼吸するのも忘れていた。


 そうか、俺は――認めて欲しかったんだ。お前は間違ったことなんてしていない。誇っていいなんて、言われなかったら思いもしなかった。

 

「全くもって、橘さんの言う通りですわ。いいですの? 悲しいことですが、大半の人はいじめを見て見ぬふりをして――何もしない、傍観者になりますわ。


 しかし、あなたは傍観者ではなく、一人を救う決断をした。それは、誰にでもできることではありません。あなたは自分を過小評価していますわ」


 ――それは違う。南谷さんの誤解だ。

 俺は中学のとき、誰にも助けてもらえなかった。

 だから俺は、自分がして欲しかったことをしただけだ。

 ――決して、褒められることでは……


「……やっぱり、太郎はかっこいいね」


 凛音が俺の心を見透かしたかのように言う。普段空気が読めないのに、何でこう言う時は……いつも、俺が欲しい言葉をくれるんだ?


「……ありがとう」照れが混じり、ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、俺は何とかお礼を伝えられた。

 凛音と、南谷さんに。


「えと……? どういたしまして?」凛音がキョトンと首を傾げる。お礼を言われることをした自覚がないらしい。


「ふふん。もっと感謝してくれてもいいんですのよ?」


 凛音とは対照的に、南谷さんは胸を張った。


「……本当に、ありがとう」今度は目を逸らしてしまった。素直に生きるというのは、案外、難しい。


 暖かい空気に包まれた空間で、思いついたかのように南谷さんは言う。


「そうですわ! わたくしがあなたたちのお友達になってあげますわ。……ふふ、お友達が増えましたわ」


 さも名案と言わんばかりに南谷さんは胸を張る。それを、凛音は嫌そうな顔をして言う。

 

「え、別に美咲とは友達になりたいわけじゃ……」

「――いいえ、お友達ですわ!」


 凛音は不満そうに口を尖らせる。それを、南谷さんは「何ですの!?」と反応する。


 楽しいな。思わず口が緩んだ。

 ――フィクションではよくある、青春の話。俺がずっと夢見ていて、届かないと思っていた学園生活。


 それが、目の前に広がっている。


「だからお友達ですわ!……佐藤さんも何か言ってくださいまし! あなたもわたくしのお友達ですからね!?」

「――俺が、友達?」


 目の前に広がる憧れ。俺も、その中に入っていいのか?


「……な、何ですの? その目……も、もしかして、わたくしとお友達になるのは嫌ですの……?」


「いや、違くて。……その、俺も友達になりたい、です」


 花が咲くような笑顔で、南谷さんは安心したように笑った。もしかしてこの人、友達いないのか? 大袈裟な態度を見ていると、そんな失礼なことを考えてしまう。


 すると、それを見ていた凛音がハッとしたように間に割り込み、南谷さんに対して、

 

「え、太郎がなるなら私も友達。よろしく、美咲」

 

 と、調子のいいことを言って見せた。だが、意外にも南谷さんは嬉しそうに微笑んだ。


 いじめの問題が解決したわけではない。

 それでも、少しずつ毎日が楽しくなった。

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