表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第二章 探し物と秘密
16/23

16話 嘘の中で

 <視点変更 佐藤佐藤>


 西田綺羅。東野友里。


 二人は、リーダー的存在の前原麗華と共に、俺に嫌がらせをする性格破綻者だ。

 三人の中では、東野が一番マシだが、それは免罪符にはならない。俺は、彼女たちが心の奥底から大嫌いだ。


 周囲の人目を集め、西田があざとく首を傾げる。人をゴミだと言い放ったことを、何一つとして悪いと思っていない様子だった。

 

「……綺羅、行きましょう。彼とは偶然出会っただけ。私が自主的に会ったわけではないし、これ以上関わる価値もないわ」

 

 西田の隣の東野は、冷や汗を浮かべながら俺を睨む。彼女のこういうところでの責任転嫁が憎かったはずなのに、今だけは助け舟に見える。

 

「えー? でも、ゆーちゃんはゴミみたいなハンカチ拾ってたじゃん。他にもゴミがいるんだよー?」

「――ッ綺羅!」

 

「何で怒っているの?……ゆーちゃん、麗華ちゃんが言ったことを否定するってこと?」


 東野の顔が、みるみる青くなっていく。悔しそうに唇を噛むと、項垂れてしまった。

 

 気がつけば、俺たちの周りは円を作るように、人が離れていった。それなのに、遠巻きに騒ぎを見ている人は増えていくようだ。


「私は……私は、彼らとは関係ないわ。……前原さんを裏切ってはいないわ」

「え? そうなの? なら、証明してみせてよ」


 西田は、凛音を――その手に握られたハンカチを指差した。

「あれ、ゆーちゃんが拾っていたでしょ?……奪い返してきてよ」


 東野はしばらく動かなかった。しかし、覚悟を決めたように凛音を睨む。俺は手を広げて、凛音を背後に庇った。

 最悪の事態だ。俺だけならともかく、凛音を巻き込んでしまうなんて。


 謝るべきなのかもしれない。いつもみたいに、俺が悪かったんです。って言えば、きっと見逃してくれるだろう。


 俺が決心した時だった。

 

「謝ってください」

「――凛音?」


 騒ぎの中で、もっとも響く声音で凛音が言う。俺は、視線を凛音の方にやった。彼女は――西田よりも、東野よりも鋭く、彼女たちを睨んでいた。


「太郎にひどいことを言ったこと、私の私物を貶したこと、そして……」


 凛音は東野に目をやる。

 

「太郎だけではなく、そこの人にも、謝ってください」


「……はぁ?」


 西田は舌打ちをした。俺が間にいなければ、そのまま凛音を殴っていたかもしれない。それくらい、濃密な殺意だった。


「なんでアンタに命令されないといけないんですかぁ? てか、私とゆーちゃんは親友だし? 赤の他人は黙れよ」

「ええ、たしかに赤の他人です。私には彼女を脅しているように見えました」


 勘違いでしたらすみません。凛音はそう付け加えるが、周囲の声は凛音の味方をするものが多い。西田の劣勢は言うまでもなかった。


 しかし、先に口を開いたのは西田ではなかった。


「えっと、凛音さん? 綺羅は何も悪くないわ。綺羅は、私を庇っただけよ。だから、今回は私が悪かったということで水に流してちょうだい」


 東野は場違いなほど丁寧に頭を下げた。


「……いや、おかしいだろ」

 思わず俺は呟いてしまう。今回の場合は、謝るのは西田の方で、東野に非はない。

「おかしくなんてないわ。……綺羅は私の親友だもの」


 俺にも、凛音にも理解できなかった。俺にとったら東野とは、前原の取り巻きの一人という印象が強く、彼女については何も知らない。


 ここで謝ることで場を収めた東野は正しい。だが俺には責任を曖昧にする、ずる賢い行為に思えた。しかし、場を収めたのは事実なので、俺に彼女を否定することはできなかった。


「……俺が言えたことじゃないか……」

「? 太郎何か言った?」

「いや、特に何も。……俺たちはそろそろ帰ろう」


 胸のざわめきが消えたわけではないが、それでもこの場を離れるのに最適なタイミングだった。

 まだ不服そうな凛音も「仕方がないか」と西田の謝罪を諦めた。だが立ち去る前に、東野の方に視線をやって、


「ハンカチ見つけてくれて、本当にありがとうございました」と、微笑みを浮かべながらお礼を口にした。

 

 俺は黙って立ち去った。これ以上、騒ぎを大きくするのは本意ではないし、下手なことを言うのも怖かった。


「わ、たしは……」東野の震える声だけが、耳に届いた。


 しかし俺は――俺たちは、もう振り返らなかった。


 <視点変更 東野友里>


「なんなのあいつら……ほっんとムカつくんだけど!?」

 綺羅が何かを言っているが、私の耳には入ってこなかった。

 

『謝ってください』


 凛音と呼ばれた彼女の声が、耳に残っている。


「ねぇ、聞いてる?」


 気がつけば、綺羅が私を睨んでいた。私の親友の綺羅。彼女の声が、耳にまとわりつくような声だと思うようになったのは、いつからだっただろうか。


「……聞いているわよ」私は適当に返事をした。どうせ、私の返答は当てにしていないはずだ。


「ふーん。ならいいけど。ところでさぁー、あの女、邪魔だよね?……麗華ちゃんに言いつけちゃお?」


「……あの女って?」


 私はわかっているのに聞いてしまった。綺羅は、想像通りキャハハと笑う。


「もちろん、あのゴミと一緒にいたブスのことだよ! 生意気だよねぇ。私の親友のゆーちゃんなら、そう思うよね?」


 違うわ。彼女は素晴らしい人よ。そう言いたかったのに、どうしようもなく怖かった。

 もし、綺羅に嫌われたら? 麗華さんの後ろ盾を失ったら?――家族の顔や、幼い頃の綺羅が脳裏によぎって、私は作り笑いを浮かべて言った。


「……えぇ、そうね。私も、そう……思うわ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ