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雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第二章 探し物と秘密
15/23

15話 人目につく場所で

 凛音の落としたハンカチを見つける。言葉だけなら簡単に聞こえるが、この大型のショッピングセンターでは至難の業だった。

 凛音曰く、フードコートで昼食を食べた時には間違いなくまだ手元にあったらしいので、そこから順に探していた。

 

「確認して来ましたが、女子トイレにもありませんでした。……時間もないですし、別行動した方がいいかもしれませんね……」

 

 凛音と共に女子トイレの捜索を終えた琴葉の提案で、俺たちは別れて探そうということになった。そして、真っ先に意見を述べてくれるのも、やっぱり琴葉だった。

 

「わたしはアパレルショップの方を見て来ますね」

 

 樫崎さんは、走り出す勢いで駆け出しかけた琴葉の肩を掴み声をかける。

 

「琴葉チャンは、どんなハンカチか知らねぇだろ? それに、一人だと危険だから俺も着いていく」

「え! えと……あ、ありがとうございます!」

 

 琴葉と樫崎さんは「あとで連絡する」とだけ言い残した。琴葉を樫崎さんと二人きりにする抵抗はもうなかった。なんやかんだ言って、彼がいい人だと認識しているからかもしれない。


 そんなことを考えていたら、凛音が今にも泣きそうな顔で俺の袖を掴んだ。


「……ねえ、ハンカチ」

「……ごめん。急いで探しに行こう」


 今は、凛音のハンカチを探すことが先決だ。


          <視点変更>


 東野(ひがしの) 友里(ゆり)は苛立っていた。

 同級生の佐藤太郎。彼がいたところに落ちていた淡い桃色のハンカチ。

 状況からして、彼か、その隣にいた同世代の女子の持ち物であることは間違いないだろう。だから苛立っていた。

 

「ゆーちゃん? どうしたのー? あ、ゴミが落ちている。邪魔だし、汚いね」

 

「……そうね。ここに置いておくと誰かに踏まれてしまうかもしれないわ。せめて、目立つ場所に置いてあげましょう」

 

 できる限り、佐藤とは関わらせたくない。でも、道ゆく人に踏みつけにされたハンカチが不憫で仕方がなかった。


 友里は顔を顰め、それを拾い上げた。ずいぶんと使い込まれ、糸がほつれている。全体的に薄汚れているのは、靴で踏まれたせいだろうか。どちらにせよ、友里には関係のない話だった。

 

「え、本当に拾うの?……やめときなよー。……本当に優しいんだね、ゆーちゃんは」

「ただの偽善よ。私が優しいわけないでしょう?」


 友里の親友――西田(にしだ) 綺羅(きらら)が嫌がって身を震わせた。そんな彼女の視線を受け、内心ため息をつく。

 昔は、綺羅の方が積極的に落とし物を拾うタイプだった。いつから変わってしまったのか。呆れと悲しさに胸が痛んだ。


「本当に優しいよ。本当に。……あ、あたしトイレ行ってくるね」

 

 綺羅はやや不自然なタイミングで走っていった。もしかしたら、彼女の機嫌を損ねたのかもしれない。前原麗華に電話でもして、私の悪口で盛り上がっているのかもしれない。そう思うと、この判断は間違いだった。学校ではないからって、気を抜きすぎた。今さら後悔してきた。


「……気にしても仕方がないわね。とりあえず、ハンカチはここに置いて――」

「――私のハンカチ!」


 正面から突如走ってきた女子が、友里の手からハンカチを奪い去った。できるだけ触れていたくなく、端を摘んでいたのであっさりと強奪されてしまった。


「ま、待ちなさい! それは……」


 まじまじとその女子の姿を見て、友里は言葉を失った。佐藤と共にいた女だ。「私の」ということは、このハンカチは彼女の物らしい。いや、そんなことはどうでも良かった。


 友里は彼女の背後――慌てて駆けてきた佐藤に目をやる。佐藤は驚いて目を見開く。しかし瞬時に状況を把握すると、その女子を庇うように立った。


 腕が震えている。痩せ我慢しているのだ。

「……なんで来てしまったの……?」


 思わず呟いた言葉に、佐藤は眉を顰めた。

 その言葉を放った友里も、内心呆れていた。わかっていたはずだ。このハンカチは無視し、黙って立ち去るのが正解だった。


 ハンカチの所有者の女子は、安心したようにハンカチを抱えると、ふっと息を吐き、ハッとしたように頭を下げた。


「あの、ごめんなさい。拾ってくれたんですよね? それなのに、奪い取るような真似をして」


 丁寧な人だな。そう思う。佐藤が忙しなく手を動かしているが、どういう関係なんだろうか。今は考える余裕はなかった。

 

「……いえ、お気遣いなく。その、これで解決ですよね? 私は人を待たせているのでこれで――」


「――ゆーちゃんお待たせー! って……あ、」

 

 背後から声が聞こえる。綺羅が帰ってきたようだ。そして最悪なことに、彼女は気づいてしまったらしい。

 私の視線だと顔は見えないのに、笑っているのが長い付き合いでわかった。


「なんでこんなところにゴミがいるの? ゴミ箱に戻ればいいのに」


 キャハハ。そんな甲高い声が響いた。

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