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雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第二章 探し物と秘密
13/22

13話 二人は店の中で

『悪いな琴葉チャン。選ぶの手伝ってくれ』

『大丈夫です! わたしに任せてください!……何してるの? お兄ちゃんは邪魔』


 ……と、俺は琴葉に同行を拒否され、渋々ショッピングセンターの中を歩き回っていた。しかし悲しくはない。だって――


「ねえ、太郎。どっちの方が好き? お揃いにしよ」


 同じく琴葉に同行拒否された凛音と、遊び回れているからだ。

 正直に言おう。樫崎さんがいるだけでストレスで頭痛がした。最初こそ、琴葉と関わらせることを心配していたが、疲れ切った今ではむしろナイスとまで思っていた。


「聞いてる? どっちがいい?」


 凛音が半眼にこちらを覗き込みながら聞いてきた。まずい、何も聞いていなかった。俺は咄嗟に右を指差す。

 

「右かぁ……うーん……まあ、太郎がそう言うなら……」

「めっちゃ微妙な反応だな」


 俺は凛音の手に握られたキーホルダーを見た。右にいるのは、よくわからない猫のキャラ。左にいるのは、よくわからない犬のキャラ。いや、どっちも大して変わらないだろ。


 凛音はうーん、と可愛らしく唸ると、諦めたようにどちらも棚に戻してしまった。「他にも見てから決めよ」そう口にしながら。


 俺からも何か提案した方がいいのか? いや、『お兄ちゃんはセンスないの自覚した方がいいよ』と琴葉に口酸っぱく言われている。余計なことは言わない方がいいかもしれない。


 凛音は店内をうろちょろしていたが、向かいの店を指差した。


「あっちのお店に……あ、待って電話だ。ちょっと待ってて」

 

 俺の返事を聞く前に、凛音は人気のない方に行ってしまった。買いもしないのに店内にいるのは気まずく、俺は店内の椅子に腰掛けた。


 お昼時を過ぎたというのに、人で溢れかえっていた。こんなに人がいるのに、凛音に出会えたのは奇跡かもしれない。いや、人が多いからこそ、こうして偶然出会えたのかもしれない。


 こんなに大きいショッピングセンターだ。知り合いの一人や二人いてもおかしくない。

 そんなことを考え、辺りを見渡したときだった。


「これ麗華ちゃんに似合いそう!」

「……少し派手すぎじゃない?」


 その声に背筋が凍った。聞き覚えのある声。聞きたくはなかった声。俺は思わず身を縮め、慎重に辺りを伺った。


 ちょうど、凛音が指を刺していた店だ。俺をいじめている前原の取り巻きの二人、西田と東野がいる。ぱっと見、前原はいないように見えるが、まだわからない。この二人は前原よりはマシだが、それでも顔を合わせたくない。


 移動しよう――タイミングが悪かった。


「あ、太郎いた」


 電話を終えた凛音が、大きく手を振って俺の名前を呼んだ。凛音は呑気に話しかけてくる。

 

「兄さんからだったよ。そろそろ私は帰ろうって……大丈夫? 顔色、悪いけど……」

「だ、大丈夫だから……移動、移動しよう。ここは……」


 勘の悪い凛音だが、今は何かを察してくれたのか、黙って頷いた。しかし、遅かったようだ。東野と目が合った。


「……最悪」

 東野はそう呟いた気がする。いや、わからない。距離がありすぎるし、俺の被害妄想かもしれない。

 それでも、俺に気がついたのは間違いなかった。

 

「え、ゆーちゃん。何か言った?」


 無邪気な笑顔で、西田が東野に視線を向ける。その振り向く仕草が、あまりにゆっくり見え、恐怖に冷や汗が浮かんだ。


 でも、西田は俺に気がつかなかった。東野が、西田の視線を手を広げることで遮る。


「え、ゆーちゃん?」

 西田の動揺が、俺の耳にまで届いた。


 俺にも意味がわからなかった。きっといつものように、俺の醜態をカメラに収め、ゴミを見るかのように俺を見る――そのはずだった。


 ため息と軽蔑の中間くらいの声音で、東野は言う。

 

「見ない方がいいわ。踏み潰された虫の死骸が転がってるから、不快になるだけよ。虫、嫌いでしょ?」

「え、やだ。虫大っ嫌い!」

「でしょ? そうだ、清掃の人来るかもだし、先に奥の方見よ」


 本当に虫を見るように東野は俺を睨み、何も言わずに西田を連れて店内に入って行った。


 どっと疲れが押し寄せてきた。深くため息をついてしまう。移動するべきなのに、足に力が入らなかった。


「……えっと……そろそろ動ける?」

 凛音が俺に優しく声をかけてくれるまで、俺は動けなかった。

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