表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第二章 探し物と秘密
12/22

12話 ショッピングセンターの外で

「………………」

「おい、会話できないなら目を合わすな。気まずいじゃねぇか」


 凛音がいなくなった席に座るこの男は、樫崎(かしざき) 大河(たいが)。凛音の兄で、なぜか琴葉が懐いている男だ。


 俺はサッと目を逸らした。周囲に凛音も、琴葉もいない。それは昼食を食べ終わったあと、数分前に遡る。


 琴葉が唐突に「そういえば服買っていない!」と叫んだのだ。そして、「凛音さんの意見が欲しいです!」と、凛音を連れ、風の如く去っていってしまった。下手なウインクをして。

 凛音は「え、私頼りにされている……!?」と、嬉々として琴葉の元に行った。

 いや、俺のことを考えてほしい。


 まあ、そんなこんなで、俺と樫崎さんだけがこの場に残された。普通に気まずい。誰か助けて。


「……あんま人様の悪口は言いたくねぇんだがよぉ……」

「は、はい!? な、何でしょうか?」

 そんな気まずい時間を過ごしていたら、ついに彼が話しかけてくれた。渡りに船と、俺は食いついたのだが、それが間違いだったようだ。


「琴葉チャン、大丈夫かよあれで……自由気ままだし、馬鹿みたいに警戒心ないし、めっっっっちゃ騙されやすいし」

「え、騙したのか?……ですか?」

「ん? あぁ……冗談で持ち金ゼロだと言ったら、『え!そうなんですか!? なら、わたしが払います!』って。あれ、大丈夫か? 将来ツボとか買わされないか?」

「……否定できないのが辛いところですね」

 

 俺は額に手をやった。俺の両親も、待望の女の子を甘やかすのはわかるが、甘やかしすぎだろう。本当に詐欺に遭いそうだ。


「まぁ、てめぇよりはマシだけどよ。自信も自主性も無さすぎて、見ててイライラする」

「――――――」


 俺は息を呑んだ。樫崎さんが言おうとしていることはわかる。俺は、決断が苦手だ。


 洋服売り場で、凛音に手を引かれるまま逃げ出したように。フードコートで、琴葉と凛音を追わずに残ったように。断ったら相手に失礼かもなんて考えたわけではない。

 単純に、俺なんかが反対して良いのか。そう思ってしまっている。


「てめぇの妹と……友達なんだろ? 遠慮するなんて馬鹿らしいじゃねぇか。こんな世界、文句も言えない奴は悪い奴らに利用されるだけだ」


 ――うるさい。そんなこと、俺が一番わかっている。それでも、素直にはなれないんだ。だって、俺はあの時、素直になってしまったせいで――


「下僕に成り下がるなんて、つまらな……」

「――うるさいな!」


 つい、怒鳴ってしまった。限界だ。どうして、俺がこんなに言われないとならないのか。

 声を張り上げたせいで、肩がぜいぜい動く。周囲の視線を集め、今更ながら羞恥心が込み上げてきた。


「……ま、文句も言えないっていうのは訂正してやる。試すような真似して悪かったな」


 けれども、樫崎さんは少しだけ意外そうに目を細めただけで、特に何も言わなかった。だが、人目は気になるらしい。彼は立ち上がった。


「人増えてきたな。荷物持て。移動するぞ」


 樫崎さんは、大量に置かれた荷物を軽く持ち上げた。そして、俺の肩に手をやる。ひどく不快なのに、振り払うこともできなかった。


「………………」


 結局、俺は言われるがまま、彼の後を追う。一度声を張り上げただけで、肩が上がっているのが情けなくて仕方がない。


 彼の後を追い、やがて――


「……帰るんですか?」

「いや、荷物をしまうだけだ。手伝え」

「…………………」


 命令するなよ。こういう、人に当たり前のように威張れる人が、俺は誰よりも嫌いだった。

 

「命令するなよって思っただろ」


 俺を見ることもなく、樫崎さんは言い当てた。心を読まれた気がして、心臓がバクバクなった。この人はエスパーなんだろうか。え、心の中で散々悪口言っていたのバレていないよな? 驚く俺に、樫崎さんは続ける。


「だが残念。お前は年下のクソガキだ。荷物持ちになってもらおう」

「……俺を下僕にしているの、樫崎さんじゃないですか……」


 つい、口から本音が漏れた。心を読まれていると錯覚したせいだろうか。なんとなく、隠すだけ無駄だと判断してしまっていた。


「正解。よくわかったな褒めてやろう」

「いらないです。てか、無表情で言われても嬉しくありません」

「つまらないからな」


 だめだ。反論すればするほど、俺の心にダメージが入る。

 というかこの人、俺が怒鳴ったことを忘れたのか?


「普通に覚えているからな。昔の凛音に比べたらかわいいレベル……いや、かわいくはない。凛音の方が数億倍かわいい」

「だからその、心を読む技術なんですか。たしかに凛音は、俺と比べるのがおごがましいくらいの美人ですけど」


 樫崎さんは、スパイが乗っていそうな、いかにもって感じの黒い車の前で足を止めた。鍵を操作し、トランクを開ける。彼はようやく俺の方を見て、満足そうな笑みを浮かべた。

 

「よくわかっているじゃないか。下僕から、三下に格上げしてやる。ほら、さっさとトランクに荷物を詰め込め」


 俺の中のあなたは、今もヤバい組織の人、の認識のままですがねとは、流石に言えなかった。


 俺は黙って手を動かす。まず俺が運んだ、大した重さのない大量のぬいぐるみを積み込み、次に樫崎さんが持っていた、見た目に反して重かった箱やら紙袋やらを入れた。


「てめぇらの荷物も入れとけ。その量だと邪魔だろ?」

「……では、お言葉に甘えて」


 俺の荷物である、母親から頼まれた日用品もしまった。そういえば、今日中に買ってこいと言われているが、一応連絡はするべきだろうか。


「琴葉チャンよりはマシでも、ほんと警戒心ないな……」

 

 そんなことを考えていたら、樫崎さんの呟きを聞き逃してしまった。聞き返そうかと思ったが、彼のスマホが鳴ったので諦めた。彼は電話に出る。


「はいはい、樫崎ですよっと。って、橘かよ。何の用……今はショッピングセンターにいるが……は? おい待て、何で俺がそんなことを……おい!切るな!」


 樫崎さんは舌打ちし、スマホを忌々しげに睨んだ。深いため息をし、やがて掠れきった声を出す。


「………………なあ、紅茶に詳しかったりしないか?」

「いや、しませんけど。あ、でも琴葉なら詳しいかもですが……どうしましたか?」


 樫崎さんは、乾いた笑いを浮かべる。


「連絡先、教えとけばよかった……頼む、琴葉チャン呼んでくれ……」

 

 樫崎さんは、車に身を預けて項垂れた。珍しい、と言えるほどの関わりはないが、意外な姿だった。俺は好奇心に負け、つい尋ねた。


「誰かに頼まれたんですか?」


 樫崎さんは、ため息をついてから言った。

 

「橘……凛音の父親からだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ