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雨上がりに君と出会えたのなら  作者: あまの
第二章 探し物と秘密
10/22

10話 本屋さんの中で

「兄さんは良い人だよ。昔はヤバい組織にいたらしいけど」


「全く安心できないんだが。……やっぱり、琴葉おいてきたのはまずかったか? 今からでも連絡を……」


「多分大丈夫でしょ。兄さん、あれでいて常識人だし」


 凛音には悪いが、身内の言う「良い人」ほど信用できないものはない。家族に見せる顔と、外で見せる顔が同じとは限らないのだから。

 たとえば、そう。俺の両親とか――。


「てか、何で凛音は俺を引き離したんだよ。琴葉とは初対面だろ?」


「あー……初対面ではあるんだけど、なんとなく見覚えが……」


 凛音は言葉を探しながら言った。


「私の勘違いだったらごめんだけど、多分、琴葉ちゃんは昔兄さんに、『あの日』のお礼でも言いたかったんだと思う。……まあ、詳しくは琴葉ちゃんに聞いて。数年前のことだから、私もそこまではっきり覚えてないし」


「それ、結局何もわからないってことじゃないか?……はあ、琴葉が心配だ……」

「まあ、それについてはごめん。でも、向こうから連絡来るまでは別行動したい」


 納得はできないが、凛音と琴葉の思いが不覚にも一致しているため、俺は引き下がるしかなかった。スマホで時間を確認すると、あと三十分もしないうちに正午になる。それまでは放置でもいいか……俺はため息をついた。


「そうだ、ついでに参考書探すの手伝って。本屋まで逃げてきちゃったし、良いでしょ?」


 凛音は言いながら参考書のエリアに歩き出した。俺もあとを追う。

 

「それが、時間を潰すことが目的ならやめとけ。そういうのは大抵、手をつけずに押し入れにしまうことになる」

「まるで体験談みたいに言うんだね」

「実際にあった話だからな」


 そんな軽口を叩き、正午までは時間を潰すことにした。


 ――数十分後。

 

「……何言っているのかわかんないんだけど」

「さっきから何度も言ってるだろ?」

 

 険悪な雰囲気が場を支配していた。俺と凛音は睨み合いを続けた。俺は人目を気にせずに、凛音に参考書を見せつける。

 

「基礎ができてないから大人しくこれにしとけ」

「絶対いや。私はもう高校生、大人なんだよ? こんな子供騙しごめんだよ」


 俺が手に持ったのは中学一年生の基礎。それもかなり簡単なやつ。凛音が手に持ったのは「大学受験に向けて」と書かれた参考書。凛音の学力では到底解けないような問題集だった。


 基礎の重要性について、何度も説明したのだが、凛音は聞く耳を持たない。俺はため息をついた。

 

「はあ……なら、せめて『高校受験に向けて』にしとけ。それなら、高校生にも優しいと思うぞ」


 高校受験――すなわち、中学生が使う教材だ。これも凛音に言わせれば「子供騙し」であるはずだが、凛音は単純だった。


「まあ、太郎が妥協してくれたのなら仕方がない。私も大人になってあげよう」

「何で上から目線なんだよ」

「……うるさい」


 いつものことだが、今日は特に口が悪いな。とはいえ、勉強についてムキになるのは人ごとではない。俺は参考書を買いに向かった凛音を黙って見送った。


 そこで、俺のスマホが鳴り響く。マナーモードにし忘れていたらしい、慌てて確認する。

 

 琴葉からだった。しまった、完全に忘れていた。時間を確認するが、正午を過ぎている。まずい、凛音に構いすぎた。琴葉は大丈夫だろうか? 心配しながら俺は電話に出た。


『あ、お兄ちゃん? 今どこにいる?』

 

「本屋の中にいるが、お前は?」

 

『フードコート。お昼ご飯にパフェ食べてる』

 

「満喫しすぎだろ。てか、今一人なのか?」

 

『いや、樫崎さんも一緒。あ、食べますか?』

 

「おい待て。何で普通にラブコメしてるんだ……!いいか? 未成年に近づく奴にまともなのはいないからな? 今すぐ凛音とそっち行くから待って……」

 

『じゃ、そんな感じで。またあとで〜』


 電話を切られた。手汗でスマホが滑り落ちそうになる。


 「樫崎」というのは苗字だろうか。いや、それはおかしい。凛音の兄なら、苗字は「橘」のはずだ。凛音は兄と苗字が違うのか? それとも、別人が来ているのか?


 ――いや、そんなことはどうでもいい。今は琴葉のところに行かなくてはならない。


「あ、いた。買えたよ。……どうしたの?」


 ふと気がつけば凛音が戻ってきていた。キョトンとして首を傾げ、俺を見ている。俺は、彼女の手を強引に引く。驚いている凛音に「フードコートに行こう」と声をかけた。


 凛音はぱちぱちと瞬きをしてから「お腹空いたの?」と、心配そうに返すだけだった。

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