表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/103

第97話:砦

 湖の前で朝を迎えた翌日。


 昨晩話し合ったことをアーリィとクレアに伝えると、あっさりと承諾してくれた。


「じゃあ、私とクレアは軍隊蜂に声をかけてくるわね」

「蜂さんたち、きっと喜んでくれると思うよ」


 冒険者活動をしている影響か、なんとなく予想していたのかはわからない。


 ただ、特に大きな混乱もなく、無事に花を植えられそうでよかったと思った。


 しかし、一体だけ悲しそうな瞳で見つめてくるものがいる。


「きゅー……」


 別の仕事を頼んだウサ太である。


 すでにこのあたりの花がないことを考慮すると、軍隊蜂だけで隣国の騎士を察知できるとは思えない。


 アーリィとクレアの存在が気づかれると大変なことになってしまうので、見張り役として、ウサ太を残しておきたかった。


 ウサ太が軍隊蜂に指示を出して、湖に近づく前に隣国の騎士を追い払うことができれば、容易に花を増やすことができる。


 もし騎士に見つかったとしても、ウサ太は一般的に弱い魔物とされているホーンラビットなので、警戒されるとは思えなかった。


「この役目は、ウサ太にしかできないことなんだ。軍隊蜂のためにも、頑張ってくれ」

「きゅー……」

「心配しなくても、今回はロベルトさんも一緒にいてくれる。万が一のことがあれば、ニャン吉を走らせるから、その時は助けに来てくれ」

「ニャウニャウ」

「きゅ……きゅー」


 複雑な表情を浮かべたウサ太は、ロベルトさんの方に近づき、彼の靴にポンッと前足を置く。


 それはまるで『頼んだぞ、新人……』と、言っているみたいだった。


「いやはや、魔物にお願いされる日が来るとは思いませんでしたぞ」

「きゅー……」

「仕方ありませんね。大きな外敵からは、トオルさんも守って差し上げますよ」

「きゅっ」


 よろしくな、と言わんばかりに頭を下げるウサ太を見て、俺は思った。


 それは飼い主側がやることではないのか、と。


 ***


 湖を離れた俺たちは、周囲を警戒しながら、慎重に森の中を歩き進めていく。


 今回の目的は、サウスタン帝国の動向を調査することであって、戦いを挑むわけではない。


 サウスタン帝国の騎士たちに悟られることがないよう、できる限り物音や痕跡を消して、行動していた。


「敵対勢力の方向に足を運ぶというのは、思った以上に精神的な負荷が大きいな……」


 息が詰まるような気持ちを抱き続けていることもあって、時間が長く感じていると、突然、森の中に開けた場所が見えてくる。


 そこには、激しい戦闘を意識して建てられたであろう砦が存在しているだけでなく、何十人もの騎士の姿があった。


 この光景を見たロベルトさんも息を呑んでいる。


「どうやらサウスタン帝国は、かなり前から準備していたようですな。まだここはリーフレリア王国の領土のはずですから、すでに乗っ取られているような状態です」

「勝手に砦を建設して、戦いに備えているんですね」

「リーフレリア王国と軍隊蜂が戦いを始めていたら、間違いなく大惨事になっていましたな。ただ、何やらトラブルが発生しているみたいですぞ?」


 ロベルトさんに言われて耳を澄ませてみると、状況を確認しに来たであろう上官らしき人物が鬼のような形相をしていた。


「なぜ本国から物資が届かんのだ! 搬入予定日から、すでに四日も経っているのだぞ!」

「た、隊長! 申し訳ありません! 何やら後方で軍隊蜂と思われる魔物に襲撃され、物資の運搬に悪影響が出ている模様です」

「軍隊蜂ぃー!? いい加減な報告をするな! すでに奴等の縄張りは()()()()ある。花もないのに、こっちに寄ってくるわけがないだろうが!」


 どうやら少ない物資で活動しているみたいで、騎士団の隊長はピリピリとしている。


 サウスタン帝国にとって、予期せぬことが起きているみたいだった。


 しかし、こちらとしては大きな希望が見えている。


 サウスタン帝国側にも軍隊蜂が生息していると判明したのだから。


「サウスタン帝国に生息する軍隊蜂と合流することができれば、このあたりに花を咲かせることも容易になりそうですね」


 軍隊蜂が物資を襲撃した理由はわからないが、このままそれが滞るような状態に陥れば、サウスタン帝国は撤退せざるを得なくなる。


 少なくとも、彼らは立ち往生しているような状況に陥っていた。


 この光景を見たフィアナさんとロベルトさんも、穏やかな笑みを浮かべている。


「現状では、サウスタン帝国の情報が乏しいです。もう少し様子を見てから、今後のことを考えてもいいのかもしれませんね」

「同感ですな。サウスタン帝国側に生息する軍隊蜂の状況を把握できない以上、無暗に行動するべきではありません」


 二人の言い分はもっともであり、急いで何か行動を起こすべきではない。


 アーリィたちがうまくやってくれることを信じて、俺たちは隠密行動に専念するべきだと思った。


「では、もう少し見つかりにくそうな場所に移って、監視を続けましょうか」

「わかりました」

「それが無難ですな」


 サウスタン帝国の騎士たちが物資のことで揉めている間に、俺たちはゆっくりと移動するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ