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第96話:夜間の作戦会議Ⅱ

「リーフレリア王国側に軍隊蜂の縄張りが押し出されているのであれば、このあたりに花を咲かせるだけでも、状況が一変しそうですね」

「私もそう思います。軍隊蜂の縄張りを元に戻すことができれば、この問題は解決できるはずです」


 サウスタン帝国がどれくらいの戦力を持ち合わせているのかわからないが、軍隊蜂と正面から戦うことはできないだろう。


 軍隊蜂との戦いで戦力を失っては、カルミアの街を侵略することができなくなるし、逆に侵攻される恐れも出てくるからだ。


 そのため、サウスタン帝国側に軍隊蜂を押し返すことができれば、彼らは後退するしか選択肢がなくなってしまう。


 これがうまくいけば、魔物を利用してきたツケを払わせることができるかもしれない。


 街道まで軍隊蜂が縄張りを広げることに頭を抱えていたルクレリア家の問題も、一気に解決することができる。


 軍隊蜂やサウスタン帝国との戦争を避ける唯一の方法だと思った。


「問題があるとすれば、サウスタン帝国から妨害されかねないことですね。俺たちの存在が気づかれた時点で、大きな争いに発展しかねません」


 おそらく、軍隊蜂の縄張りを減らすために、サウスタン帝国は例の毒物を使って、花を枯らせているはずだ。


 しかし、これまでの情報だけでは、その詳細を把握することができない。


 何度も軍隊蜂の縄張りに侵入して、彼らに見つかることなく花を枯らせ続けることができるとは思えなかった。


 ウルフを操る笛を使っていたとしても、ここが軍隊蜂の縄張りの中枢だったことを考えると、他にも特別なことをやっているような気がする。


「ひとまず、軍隊蜂にも協力してもらって、このあたりを警戒してもらいましょうか。もともと彼らの縄張りであったなら、花の種を植えてあげるだけでも、栽培に協力してくれると思います」

「そうしていただけると助かります。国としても証拠がないと動けませんし、街に戻っても援軍を連れてくることができません。対応できる人が限られている以上、軍隊蜂に協力してもらうことは必要不可欠です」

「軍隊蜂も嫌な顔はしないと思いますが……どちらにしても、ここからの行動は慎重になった方が良さそうですね。軍隊蜂と共に縄張りを広げるグループと、サウスタン帝国の調査を進めるグループに分けるべきだと思います」


 この場所に長く滞在すればするほど、サウスタン帝国の騎士に見つかる可能性が高くなってしまう。


 迅速に対応することはもちろんのことだが、隠密行動も取らなければならなかった。


 どこまで軍隊蜂が協力してくれるかわからないが……と考えていると、フィアナさんが真剣な表情を向けてくる。


「ここから先の調査は、私とロベルトだけで向かいましょう。トオル様たちが危険を冒す必要はありません」

「フィアナお嬢様のおっしゃる通りですな。もしものことがあった際には、戦争の引き金を引く行為に繋がります。我々だけで向かうべきですね」


 二人の意見は正しいと思うし、一般人の俺が関わるには、あまりにも問題が大きすぎるとも思う。


 しかし、ここで引き下がるつもりはなかった。


「国同士の問題に関わるつもりはありませんが、俺も二人に同行します」


 予想外のことだったのか、二人にキョトンッとした表情を向けられてしまう。


 これが単純な領土争いだったら、俺も深く関わるつもりはなかった。


 しかし、これはリーフレリア王国とサウスタン帝国だけの問題ではない。


 山で暮らす軍隊蜂を含めた問題である。


「うちの大事な庭が荒らされているのに、黙って見ているわけにはいかないでしょう。魔物は戦争の道具ではないということを、サウスタン帝国の方々に教える必要があると思います」


 これまで軍隊蜂が大切に育てている花を枯らせ、縄張りを押し出し続けてきたサウスタン帝国の行動は、決して許すことができない。


 なぜなら、軍隊蜂は消えることのない心の傷を負っているからだ。


 思い返せば、盗賊たちに花畑が枯らされた時、軍隊蜂は深い悲しみに包み込まれていた。


 まるで、花が枯れることは抗うことができない運命なのだと、思い込んでいる様子だった。


 俺たちを頼ってくれたのも、自分たちでは対処することができないとわかっていたから、藁にもすがる思いで訊ねてきてくれたんだろう。


 急に縄張り内の花が枯れてしまう現象を目の当たりにして、どう対処していいのかわからなくて、これまで縄張りを移動させることしかできなかったんだ。


 つまり、軍隊蜂は花が枯れた原因を知らないと判断して、間違いない。


 サウスタン帝国に報復することなく、大事な縄張りを譲っている時点で、それが証明されている。


 そんな軍隊蜂の気持ちを考えると、サウスタン帝国にひと泡吹かせてやりたいという気持ちがふつふつと湧きあがっていた。


 そして、もう一つ大きな理由があるのが――。


「ニャウッ!」


 臆病者なのに、ずっとついてこようとするニャン吉の存在だ。


 ニャン吉が追われていたのも、サウスタン帝国の侵攻による影響だと推測することができる。


 欲に溺れたサウスタン帝国は、魔物の生態系を破壊して、侵略していたに違いない。


 その被害者とも言えるニャン吉を群れに返すためにも、隣国の動向を探る必要があった。


 そんな俺の気持ちが伝わったのか、人手不足の影響なのかはわからないが、フィアナさんとロベルトさんは笑みを浮かべている。


「トオル様、あくまで調査に向かうだけです。それに、ここはまだルクレリア家の領地ですよ」

「細かいことは言わないでくださいよ。ルクレリア公爵との取引は生きていますし、軍隊蜂の縄張りであることには変わりないんですから」

「いやはや、リーフレリア王国でもサウスタン帝国でもなく、軍隊蜂の意見を主張する人が出てくるとは思いませんでしたな」

「今さらですね。こんな場所まで来ているロベルトさんが言えた立場でもないような気がしますし」

「そうですな。しかしながら、私はフィアナお嬢様の安全を確保することで手一杯になると思われます。トオルさんの面倒まで見切れませんよ」

「心配はいりません。自分の身くらいは自分で守れますから」


 こうして二人に許可をもらった俺は、サウスタン帝国の調査に同行することになった。


 山に暮らす魔物を代表して、平穏な生活を取り戻すために。

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