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第92話:山の調査Ⅱ

 森を抜けて湖に到着する頃には、すっかり夕暮れ時になっていた。


 まだサウスタン帝国側には森が広がっているため、無暗に進むことはできない。


 当初の予定通り、今日はこのあたりで休息を取ることに決まった。


 野営の経験があるであろうアーリィとロベルトさんは、周囲をキョロキョロと見渡して、安全確認をしている。


「見晴らしがいいから、ここだと安全に野営できそうね」

「そのようですな。湖に魔物が住んでいる様子もありませんので、気楽に過ごせると思いますぞ」

「ここまでの道のりも、軍隊蜂のおかげで気楽だったと思うけどね。整備された街道を歩いてきたわけじゃないのに、全然疲れてないんだもの」

「魔物と戦闘する機会がありませんでしたからな。現役冒険者のアーリィさんには、物足りなかったのかもしれませんね」


 二人が緩い会話を繰り広げる一方で、慣れない山道を一日かけて移動してきたフィアナさんとクレアは、疲れ果てていた。


「さすにこれ以上は歩けません。慣れない道を歩くというのは、思った以上に足に響きますね」

「うん……。お腹も空いたよー」

「きゅー……」


 小柄なウサ太も疲れたみたいで、すぐに湖に向かい、水を飲んでいる。


 その疲れ果てた姿を見た俺は、異世界に来たばかりの頃を思い出し、懐かしい気持ちを抱いていた。


 異世界に訪れたばかりの頃は、動き回って筋肉痛になっていたので、二人の気持ちはよくわかる。


 今は山暮らしで体力がついているおかげで問題ないが、最初は食べられるものもなくて、サバイバルのような感じだった。


 その当時と大きく違うのは、俺は今、多くの仲間と共に楽しく過ごしているということだ。


「スキルのマジックバッグで大きな荷物も運んでいますので、もしよろしければ、それを使って休んでください」


 腰につけていたマジックバッグの中から毛布や敷物を取り出した俺は、それをフィアナさんに手渡す。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」

「うん。トオル~、後はお願いするね」

「ああ。任せとけ」


 凸凹していない場所をフィアナさんとクレアが探し始めたので、俺はアーリィたちの元に向かった。


「とりあえず、日が暮れる前に野営の準備をしましょうか」

「そうね。いつもはトオルがスキルで料理を作ってくれるけど、今日はそういうわけにはいかないものね」

「便利なスキルを持った弊害、と言えそうですな。微力ながら、私もお手伝いさせていただきますよ」


 調理道具や食材を持ち運んでいるし、拠点で焼いたパンも持って来ている。

 

 道中でキノコも収穫できたことを踏まえると、食事に苦労することはないような気がした。


 どちらかといえば、早くも思わぬ状況に陥っていることを問題視するべきだろう。


「二人とも気づいているかもしれないが、ちょっとこのあたりは雰囲気が違うように感じないか?」


 アーリィとロベルトさんが頷く姿を見て、俺はこのあたりが安全な場所ではないことを察した。


 なぜなら、目の前に映る景色を見渡すだけでも、不自然な点が多く見受けられるからだ。


「湖の周りには、もっと花が咲いていると思っていたんだが、あまりにも少ないんだよな。日当たりが良いことを考えると、もっと咲いていないと不自然に感じてしまう」

「それもそうだけど、軍隊蜂を見る回数も減ってるのよね。日が落ち始めてるといっても、まだ巣に帰るような時間じゃないと思うわ」

「草が強く踏まれた跡があることも気になりますな。何者かが踏み荒らしたのか、大きな魔物がウロウロしているのか、といったところでしょうか」


 今までの道のりとは異なることが増えただけに、すでに軍隊蜂の縄張りを脱したと考えるべきだろう。


 まだ調査を始めたばかりだから、結論を出すのは早い気がするが……。


 思った以上に危険な調査になるかもしれない。


「そろそろ日が暮れるとはいえ、情報不足のまま夜を迎えたくはない。とりあえず、俺はウサ太とニャン吉を連れて、周囲の状況を確認してくるよ」

「じゃあ、私は野営の準備をしているわ。その……日が落ちてきたら、迷子になる自信があるから」

「では、私はトオルさんと違う方向を警戒しておきます。危険を伴う偵察になる恐れがありますので、無理なさらないようにしてください」


 ロベルトさんの忠告を受け取った俺は、アーリィにマジックバッグを預けて、ウサ太たち共にサウスタン帝国方面の森へと進んでいくのだった。

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