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第91話:山の調査Ⅰ

 拠点を離れた俺たちは、アーリィとクレアを先頭にして、見晴らしの良い草原の丘を歩いていた。


「全然大丈夫そうね」

「うんっ。ところどころ蜂さんの姿も見えるよっ」


 二人は冒険者活動で旅慣れしているだけでなく、この山で過ごしている時間が長いので、軽快な足取りで進んでいく。


 一方、古い地図を見ながら歩く俺とフィアナさんは、国境に向かう道のりを考えていた。


「どうやらこの地図を見る限り、国境に向かうまでの間に大きな湖があるみたいですね」

「以前は、カルミア湖と呼ばれていた場所ですね。ゆっくり歩いて半日程度の場所にあると思われますので、今日はそこを目指しながら、周辺の状況を確認していきましょう」

「わかりました。無理のない範囲で調査してきましょう」


 改めてメンバーを確認してみても、調査経験がありそうなのは、ロベルトさんとアーリィだけだ。


 長時間歩き続けることを考えると、子供のクレアのペースに合わせるくらいがちょうどいいだろう。


 とてもではないが、貴族令嬢であるフィアナさんは、山を歩き続けるほど体力があるとは思えなかった。


「私が屋敷の資料を確認した範囲では、国境まで一日ほどかかる見込みです。そこに破棄された砦があるはずですので、そのあたりまで軍隊蜂が生息しているのか、先に確認しておきたいところですね」

「軍隊蜂が大繁殖しているのであれば、砦に巣を作っていてもおかしくありませんね」

「さすがにそこで繁殖していれば、両国共に手出しすることはできないでしょう。その裏付けを取るために、道中に存在する軍隊蜂の巣の規模や数を知れると、ベストな形だと思います」

「軍隊蜂の数を把握するというのは、重要なことだと思います。ただ、俺たちも軍隊蜂の巣は一か所しか知らないので、そこまで詳しい調査は難しいですね」


 以前、盗賊たちに狙われた軍隊蜂の巣は、彼らが誘導してくれたために知ることができた。


 しかし、あの場所にしか軍隊蜂の巣はないのかと聞かれたら、それ以外にも存在すると言わざるを得ない。


 現に、今も花から集めたであろう蜜を運ぶ軍隊蜂は、サウスタン帝国の方へ飛んでいくものがいる。


 そっちの方向にも巣がなければ、わざわざ運ぶとは思えなかった。


「時間がかかる方法でもよければ、蜜を集め終えた軍隊蜂の後を追っていくのも、一つの手ですね」

「うーん……そちらの案は考えさせてください。軍隊蜂に干渉しすぎる行為は、本意ではありません。彼らの生活を邪魔しない範囲で、証拠を集めたいと思います」

「わかりました。では、いったん軍隊蜂の巣を探さない方向でいきましょうか」

「はい。国を納得させられる証拠が足りないようであれば、改めて探したいと思います。個人的にも気になりますので」


 フィアナさんの目がキランッと光ったので、最後の言葉が本音な気がする。


 今回の調査で時間があるようであれば、ハニードロップを持ち運ぶという名目で、軍隊蜂の巣に連れて行ってあげてもいいのかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いていると、前方に大きな森が見えてきた。


 周辺には花だけではなく、キノコが生えていて、小動物がウロウロしている。


 拠点の裏にある森に雰囲気が似ている影響か、どこか見覚えがあるような気がした。


 今までのことを思い返すと、これが偶然の感覚だと思えない。


 テイムの力が働いて、地理の情報を共有されているような気がする。


 ただ、ウサ太の行動範囲にしては広すぎるので、もしかしたら、ニャン吉がサウスタン帝国から渡ってくる時に通った森なのかもしれない。


 確信できる情報を得たい俺が、周囲の木々を確認しながら歩いていると、不意にロベルトさんがしゃがみこんだ。


「おやおや、このあたりは食べられそうなキノコがたくさんありますね」


 俺はテイムの機能を通じて、トレントの爺さんから食べられるキノコの情報を得ている。


 しかし、魔物が食べられるキノコであって、人が食べられるものとは限らないため、今まで避けてきた。


 ようやくその答え合わせをする時が来たのかもしれない……!


「ロベルトさん。もしキノコの見分け方がわかるのであれば、教えていただけませんか?」

「構いませんが……、あまりおすすめはしませんよ。慣れてくるまでの間は、誤って毒キノコを食べる人も多いですからな」

「簡単なものだけで構いません。万が一の時は、軍隊蜂の蜂蜜で解毒したいと思います」

「ハッハッハ。なかなか贅沢な治療法ですな。そういう対処法をお持ちであれば、教えて差し上げましょうか」


 よしっ、これで調理システムで作れるレシピが増えるぞ! と、俺は気持ちが高ぶる。


 一方、ハードルが高すぎたのか、ロベルトさんは浮かない顔をしていた。


「と言いましても、初心者でも見分けがつくものであれば、この二つくらいでしょうか」


 そう言ったロベルトさんが取ったのは、小さなキノコが集まった二つの大きな塊である。


「ん? これは……よく見たら、しめじと舞茸、ですか?」

「おや、ご存知でしたか。人の手が入らない場所ですので、かなり大きく育っていて、パッと見ただけではわからなかったのかもしれませんな」


 今までスーパーで販売されているような手軽な大きさのキノコしか見たことがなかった俺は、これが普段から食べていたものだと認識することができなかった。


 実際に手で採取してみても、片手で収まらないほど大きく、ズッシリと重い。


 トレントの爺さんの知識を参考にしても、この二つのキノコは無害だと認識できている。


 もしかしたら、意外に食べられるキノコが多いのかもしれない。


 その知識を参考にして、ロベルトさんに確認を取ってみよう。


「ちなみに、こっちの赤いキノコはどうですか?」

「毒キノコですね」

「じゃあ、こっちの白いものは?」

「猛毒がありますね」

「えーっと、こっちの小ぶりのキノコは……?」

「強い幻覚作用があるものですね」


 トレントの爺さん、参考にならねえよ……。


 どうやらここまで避けてきて、正解だったらしい。


 危うく異世界にやってきて、毒キノコを食べて死ぬところだった……と冷や汗をかいていると、アーリィが近づいてきた。


「トオル、キノコだけは無暗に手を出すものじゃないわ」

「まさかとは思うが、毒キノコを食べた経験があるのか?」

「ないわよ。師匠が口酸っぱく言ってただけよ。キノコだけは絶対に食べられるものだけを食べなさいって」


 アーリィのその言葉を聞いて、俺は悟った。


 イリスさんは女神様なのに、毒キノコを食べて苦しんだ経験があるんだなー、と。

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