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第78話:貴族令嬢

 風呂場の建設という共通の目的を得た俺たちが、重い石や木材を運び込み、素材集めを終える頃。


 あっという間に時間が流れたこともあって、ルクレリア家と会合する日を迎えていた。


 早く拠点レベルを上げて、どんな風呂場ができるのか、確認したいところではあるが――。


「拠点レベルが上がるのは、時間がかかるんだよな」


 ウィンドウ画面に『九時間』と表示されているので、夕方頃に完成する見込みだった。


 ちょうど街に向かう予定があるから、帰ってきた頃に完成するだろう。


 待ち遠しい気持ちはあるが、それを原動力に変えて、今日も一日頑張ろうと思った。


 当然、風呂場の建設に意欲的になっていたアーリィもウキウキしている。


 それがどれくらいかというと、拠点の中をスキップで移動して、無駄にクルリッと回ってしまうほどだ。


「素材集めの一件で後回しにしちゃったから、今日はバラ園に種を植えてこようかなー♪」


 軍隊蜂に幸せをお裾分けするというのは、とてもいいアイデアである。


 しかし、これだけ気持ちを高ぶらせていても、湯を生成するクレアの魔法がうまく発動しなければ、意味がない。


 よって、風呂場が完成するまでの間、クレアには休息を取ってもらうことにした。


 しっかりと休める環境を整えるべく、ウサ太にも残ってもらう予定である。


「じゃあ、俺は街に行ってくる。クレアには何か制限をかけるわけじゃないが、今日の仕事は風呂場が完成してからだ。しっかりと体を休ませるんだぞ」

「うんっ。ウサちゃんとネコちゃんと一緒に、拠点でゆっくりするね」

「きゅーっ!」

「ニャッ!?」


 なお、臆病な魔物であるニャン吉だけは、自分も一緒に休むことに驚いていた。


 ニャン吉が大人しく過ごすことができるか、少し心配な気持ちはあるが、クレアがいるなら問題はない気がする。


 ニャン吉も外より拠点の中の方が安全だとわかったみたいで、部屋の端っこや狭いところでのんびりしていることが多かった。


 街に連れていくことはできないので、このまま留守番してもらうべきだろう。


 なんといっても、支度を終えたアーリィが剣を持った瞬間、身構えているくらいなのだから。


「待って、トオル。私も途中まで一緒に行くわ」

「ニャーッ!!」


 剣を持った人間には慣れないのか、一目散に避難していった。


「……私、シルクキャットとは仲良くなれる気がしないわ」

「心配しなくても、そのうち見慣れてくれるさ」

「そうかしら。まあ、よく考えてみたら、私は魔物と仲良くなる方法を知らないのよね。軍隊蜂の時は、自然と受け入れてもらっていたから」


 確かにな……と思いつつ、俺とアーリィは拠点を離れていくのであった。


 ***


 バラ園の予定地でアーリィと別れ、一人で街までやってくると、俺はすぐにルクレリア家の屋敷を訪ねた。


 まだ監視が続いているはずなので、寄り道することはできない。


 一刻も早く荷物袋に入れた軍隊蜂の蜜蝋(みつろう)を届けて、ルクレリア家の信頼を得ようと考えていた。


 その思いが通じたのか、わざわざフィアナさんが正門まで足を運んで、出迎えてくれる。


 ただ、いつもとは様子が違い、貴族令嬢らしいワンピースに身を包み、とてもお淑やかなオーラを放っていた。


「お待ちしておりました」

「珍しい服装……と言っては失礼ですが、今日は冒険者ギルドの制服ではないんですね」

「本日は、ルクレリア家の人間として、同席することにいたしました。冒険者ギルドには、休暇を申請しております」


 律儀な性格のフィアナさんは、公私混同しないように、自分の立場に合わせて服装を選んでいるみたいだ。


 わざわざルクレリア家の人間であることを口にするのであれば、今日は貴族令嬢として扱った方がいいのかもしれない。


「いつも綺麗ですが、今日は特に綺麗ですね」

「ありがとうございます。では、こちらにどうぞ」


 ……いつもと同じ対応で問題なさそうだ。


 明らかに言われ慣れている印象があるし、照れる様子も見られなかった。


 まあ、オッサンに容姿を褒められても、嬉しいかどうかは別の話で――。


「トオル様も、そういうことを言われる方だったんですね。次からは不意を突かれないように気をつけておきます」


 徐々にフィアナさんの頬が赤くなり始めたので、照れ隠しで素っ気ない対応を取っていただけだったようだ。


 逆にこっちが照れ臭くなってしまうので、今後は余計なことを言わないようにしよう。

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