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第67話:ルクレリア家との会談Ⅰ

 ルクレリア家の屋敷に到着した俺は、フィアナさんに案内されて、商談室に通される。


 そこには、二人の男性が待ち構えていた。


 一人は、ソファーに座る茶色い髪をした男性で、貴族用のコートを羽織っている。


 俺よりも少し年上くらいだと思うが、貫禄があり、堂々とした態度だった。


 もう一人は、ソファーの後ろに立っている顎髭を生やした執事の男性。


 白髪をしている影響か、かなり齢を重ねているように思う。


 ただ、体を鍛えているのか、背筋はシャンッとしていて、腰に剣を差していた。


 彼は護衛役を兼任している執事か……と思いながらも、気を引き締めた俺は、座っている男性の方に近づいていく。


 すると、わざわざ立ち上がって、出迎えてくれた。


「私はこの地を治めている公爵家の当主、デレク・ルクレリアだ。よろしく頼む」

「お初目にかかります。私はトオルと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」


 ルクレリア公爵が手を差し出してくれたので、俺はしっかりと握手をする。


 見た目以上に大きな手で、そのバイタリティが溢れているかのように力強い印象だった。


「驚いたよ。珍しい素材を採取する者が、君のような礼儀正しい青年……という年齢ではなさそうだな」


 身なりを整えてきて、正解だったな。


 第一印象で好感を与えることができたみたいだ。


「若く見られることはありがたいのですが、私はすでに三十歳を過ぎております。青年と呼ばれると、むず痒い気持ちになりますね」

「そうか。では、齢が近いのかもしれないな。私は年上に見られることが多くて、困っているよ。まだ三十五歳なんだがね」

「えっ……偶然ですね。私も今年で三十五歳を迎えました」

「ほう、まさか同年齢だったとは。これも何かの縁なのかもしれないな。さあ、挨拶はこれくらいにして、腰を下ろしてくれ」

「失礼します」


 ルクレリア公爵に座るように指示されたので、俺はソファーにゆっくりと腰を下ろす。


 俺の隣に腰を下ろしたフィアナさんが「お父様と同い年だったんですね……」と呟くが、こっちは同年齢の父親がいたことに驚いているよ。


 異世界では、結婚時期や子供を授かる年齢が早いのかもしれないが、同級生に大きな子供がいると考えると、不思議と焦燥感にかられてしまう。


 まあ、今はそんなことに動揺している場合ではないが。


 ルクレリア公爵が執事の方に手をやったため、俺はそちらの方に顔を向けた。


「彼は私の補佐をしている執事、兼護衛のロベルトだ。もともと我らが暮らす国、リーフレリア王国の騎士団を率いていた経験もある優秀な人物だよ」

「旦那様よりご紹介にあずかりました、ロベルト・ミュラーと申します。よろしくお願いいたします」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


 ロベルトさんは穏やかな印象があるものの、仕草に無駄がなく、隙がないように感じた。


 今は執事の仕事をされているとはいえ、名字があるということは、貴族の可能性が高い。


 一応、油断しないように注意しておこう。


 自己紹介が済んだところで、俺はすかさず手土産作戦を実行する。


「ルクレリア公爵のお口に合うかはわかりませんが、もしよろしければ、こちらを受け取ってください」

「うむ。一目見た限り、ワインのように思うが……」

「おっしゃる通りです。ただ、普通のワインだとルクレリア公爵の舌を満足させられないと思いまして、トレント果実から作らせていただきました」


 営業スマイルを浮かべる俺とは対照的に、部屋にブリザードでも吹いたのかと思うほど、場が凍りついた。


 ルクレリア公爵とロベルトさんは、きっと心の中で『トレントの果実……? トレントの果実で、ワインを……?』と復唱して、理解するために頭をフル回転させていることだろう。


 俺の対応に慣れたと思われるフィアナさんでさえ、『そのような話は聞いておりませんが』と言いたげに顔を歪めているのだから、彼らが戸惑うのも無理はなかった。


 ただ、さすがは公爵家の当主というべきか……。


 取り乱すような姿を見せることはなく、ニヤリッと不敵な笑みを浮かべている。


「ほう、君はなかなか面白いことを言うのだな。知っていると思うが、魔物の作り出したものやそれらの素材は、魔力が豊富に含まれているため、魔道具で確認することができる。嘘は通用しないぞ?」


 そういう仕組みだったとは知りませんでした、などと、真顔で言うつもりはない。


「初対面で嘘をつくほど、私は愚かではございません」

「この屋敷に、その魔道具が存在すると言っても、君はトレントの果実からワインを作ったと言うつもりか?」

「おっしゃる通りです」

「面白い。フィアナ、冒険者ギルドの職員として、このワインが本物かどうか調べてきてくれ」

「……かしこまりました」


 僅かに委縮したフィアナさんにワインを渡すと、確認作業をするために退室した。


 ルクレリア公爵が『冒険者ギルドの職員として』と口にしたのは、嘘をつくなよ、という意味合いがあるのかもしれない。


 フィアナさんもわざわざ冒険者ギルドの制服に身を包んでいるくらいだから、こういった話し合いの場においては、父娘関係ではなく、取引先として認識しているんだろう。


 そういう身内を特別扱いしない方針は、好感が持てる。


 ただ、紹介者のフィアナさんを退席させてまで、確認作業を急ぐ必要はない。


 メイドに魔道具を持ってこさせて、この場で確認してもよかったはずだ。


 どうやらルクレリア公爵の心を揺さぶることに成功したらしい。


 本物のトレントの果実で作っている以上、俺にはプレッシャーがかかることはないが、彼は違う。


 お土産でプレッシャーがかかったみたいで、ルクレリア公爵は焦っているような印象だった。

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