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第55話:山のルール

 アーリィたちと合流した俺は、クレアと二人で荷物を分担して持ち、街を後にした。


 今まで街道で危険な目に遭ったことはないものの、魔物に襲われる恐れがあるため、常にアーリィが戦えるような状態を作っている。


 異世界で荷物を運ぶなら、今はこれが最適な方法だと思うんだが……。


 容量の大きいものや重いものは、ネットショップで配送してもらってばかりだったので、どうしても効率が悪いと思ってしまう。


「両手に持てるだけの荷物しか運べないのも考え物だな。いっそのこと荷車でも買って、一気に運ぶことも考えた方がいいかもしれない」

「やめた方がいいと思うわ。傾斜が低いといっても、あそこは山だもの。荷車を引いていくのは、かなり重労働になる気がするわ」

「それもそうか。結局、何度も往復して、地道に運んだ方がよさそうだな」


 愚痴をこぼしていても仕方ないので、荷物を落とさないように気をつけながら、拠点に向かって歩き続けていく。


 すると、何か言いにくいことでもあったのか、アーリィが口をモゴモゴさせていた。


「ねえ、トオル。私たちのことなんだけど……。本当にあのまま滞在しててもいいの?」

「ん? 急にどうしたんだ?」

「改めて考えてみると、優遇されすぎだなって思うの。依頼主であるトオルの意向とはいえ、私たちが何度も高級品を口にするのは、さすがにおかしいと思うわ」


 アーリィの気持ちは理解できるし、俺も過度に気遣うべきではないと考えている。


 同じ人から何度も高級食材をご馳走されていると思うと、さすがに気が気じゃない。


 真面目なアーリィは、そういう気持ちをうまく流すことができず、抱え込んでしまうんだろう。


 ただ、今回の件に関しては、アーリィに考え方を改めてもらう必要があった。


「俺が蜂蜜を独り占めすると、軍隊蜂が怒るはずなんだ。彼らは花を栽培してくれる人に分けているはずだから、アーリィとクレアも受け取るべきだと思うぞ」


 あの山のルールは、持ちつ持たれつの関係であること。


 俺たちもそういう関係を築いていくべきだと考えている。


「じゃあ、トレントの果実は……って、そっちはそっちで余っちゃってるのよね?」

「ああ。今日も冒険者ギルドで余剰分を売却したんだが、早くも怪しまれていた。普通はこんなにもトレントの果実が持ち運ばれることはない、ってな」

「貴族に人気の珍しい果物だものね。冒険者の私が大量に持ち込んだとしても、きっと不審に思われるはずよ」

「現状でも売れないことはないが、必要以上に売却するべきではない。せっかくトレントの爺さんが実らせてくれたものだから、できる限りは食べてやりたい気持ちもある」


 リンゴは貴重な栄養源であり、嗜好品でもあるため、贅沢な悩みだとは思っている。


 拠点レベルも上がったことだし、もう少し工夫して食べてみるのもいいかもしれない。


 アーリィも似たようなことを考えているみたいで、より一層悩み始めてしまった。


「トレントの果実も軍隊蜂の蜂蜜も、分けてもらえるのはありがたいわ。でもね、それで依頼料までもらうのは、さすがに強欲だと思うの」


 気持ちがわからなくもないだけに、落としどころが難しくなってきたが……。


 やっぱり必要以上に人間社会のルールを持ち込むのではなく、山のルールに従うべきだと思う。 


「俺はアーリィとクレア以外に依頼をこなせる人がいるとは思っていない。依頼料を受け取っても、問題はないんじゃないか?」

「まあ、軍隊蜂がいる以上、あの山で依頼を受けたいと思う人なんて、この世にいるかいないかの瀬戸際だもんね……」

「それを考えると、割高でもないと思うんだよ。軍隊蜂に認められない限り、依頼を受けることもできないという問題もある」

「う~ん……。う~ん……!」

「そこまで悩まなくてもいいと思うんだが。とりあえず、クレアと二人合わせて、日給金貨一枚から始めるのはどうだ?」


 肉体労働が多く、定期的に休みが取れないことを考えれば、一日当たり金貨一枚、日本円で一万円なので、高いとは思えない。


 ましてや、共に働くクレアを含めての金額なので、割安のように感じる。


 しかし、アーリィの表情は曇っていた。


「毎日金貨をもらえるなんて、贅沢すぎない?」

「金貨という言葉に反応するなよ。話し合っても埒が明かないから、いったん依頼料はこれでいくぞ」


 話が振り出しに戻りそうだったので、強引に金額を決めたが、再びアーリィが言い返してくることはなかった。


 むしろ、また口をモゴモゴさせていて、恥ずかしそうにしている。


「一応、私とクレアで相談して、互いにできることをしようかなーとは思ってるんだけど……」


 思った以上に悩ませていたみたいで、アーリィが荷物袋から小さなものを取り出した。


「これは……種、か」


 街で植物の種を購入していたみたいだ。


「盗賊たちが花を枯らせた場所に、バラの種を植えて、庭園を造ろうと思っているの。軍隊蜂の好きな花はわからないけど、手の込んだガーデニングを作れば、喜んでもらえるかなって」


 アーリィの言葉を聞くだけでも、どれだけ軍隊蜂のことを思って行動してくれているのか、よくわかる。


 きっと盗賊たちが花を枯らせた嫌な記憶が残る場所を、素敵な思い出が残る地にしてあげたいと思ったに違いない。


 そんなことを考えてくれるだけでも、アーリィたちがいてくれて本当によかったと思った。


「良いアイデアだな。山にバラは見当たらなかったから、きっと喜んでくれると思うぞ」

「そう思ってくれるのなら、よかったわ。トオルに相談せずに買っちゃったから、ちょっと心配してたのよ」

「そんなことで怒るつもりはないが……、それでさっきから落ち着きがなかったわけか」

「えっ? そんなに顔に出てた? うまく隠してたつもりだったんだけどなー」


 照れたアーリィが顔を赤くする中、クレアが真剣な表情を浮かべてきた。


「私はね、お風呂に湯を張れる魔法使いになるよ……!」

「クレア……!」


 諦めかけていた風呂の問題を解決しようとしてくれるクレアが、天使のように見えてしまう。


 魔物がはびこる異世界において、とても平和な目標を掲げる見習い魔法使いだとは思うが、子供のうちはそれでいいと思う。


 少なくとも、あの山で暮らす限りは、子供らしく生きてほしい。


「最近は魔法の調子がいいんだよ? 蜂蜜を食べ始めてから、魔力量が増えているような気がするの」

「そうか。じゃあ、虫歯にならない程度に食べないとな」

「うんっ。お風呂のためにね」


 拠点に戻ったら、風呂が作れるか確認しないとなーと思いつつ、俺は山に戻っていく。


 山で風呂に浸かるなんて、温泉気分で最高だなーと思いを寄せながら。

お読みいただきありがとうございます。


この話で第一章(第一部)が終わり、明日から第二章がスタートします。


第二章では、フィアナを中心とした形で物語を展開しつつも、山暮らしを堪能していきます。


新しい魔物だけでなく、新しいオッサンと爺さんも出てきますので、お楽しみに!


また、本作は先日発表されたカクヨムコンテスト10で『特別賞』を受賞いたしました。


なろうでもカクヨムでも人気が出ることで、モチベ的にも大人の事情的にも続けやすくなりますので、応援よろしくお願いします。


(作者も生活がありますので、書籍が売れたり、WEBで人気が出たりしないと、継続が難しい状況に陥ってしまいます……)


本作をお読みいただいて、少しでも「続きが気になる」「面白い」「続いてほしい」など思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)で、応援していただけると嬉しいです!


執筆の励みにもなりますので、よろしくお願いします!

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