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第50話:盗賊Ⅰ

 アーリィたちと別れた後、山の緩やかな斜面を下っていくと、しばらくして盗賊たちを発見した。


 俺より年上の男性ばかりで、その数およそ三十人ほど。しっかりとした装備を着用していて、周囲を警戒するように慎重に歩いている。


 当然、こちらが目視できるようになった段階で、向こう側からもそれができるわけであって……。


「なんだ、あいつは?」


 運が悪いことに、盗賊たちに気づかれてしまう。


 冒険者活動をしているアーリィやクレアと違い、俺はこういう偵察行為をやったことがない。


 どちらかといえば、人からモノを奪う盗賊たちの方が場数を踏んでいるので、当然の結果とも言えた。


「こういう展開だけは避けたかったんだが、仕方ないか」


 俺の予定では、木々で姿を隠し、まだ軍隊蜂がいるように音を立てて、足止めしようと考えていたんだが……。


 姿を見られてしまった以上、小細工を(ろう)することはできなかった。


「俺はどう見ても弱そうなオッサンにしか見えないから、足止めは至難の業だと思うんだけどなー」


 そんな弱気な気持ちを抱くものの、盗賊たちの様子を見る限り、状況は悪くないように思えてくる。


 なぜか動揺する盗賊たちは、距離を詰めてくることもなく、その場で立ち止まってくれていた。


「おい、どうしてこんなところに人がいるんだ。話と違うぞ」

「俺たちの計画は大丈夫なのか? もし()()()()が洩れていたら――」

「黙れ。余計なことは言うな」


 盗賊の(かしら)と思われる男だけは様子が違い、一歩前に出て、こちらを睨みつけてくる。


「ここで何をしている」


 軍隊蜂の巣に誰かがいたことに対して、戸惑っているみたいだ。


 それならまだ、うまくやりすごすことができるだろう。


 今はウサ太が軍隊蜂を連れ戻してくれることを信じて、時間を稼ぐことに専念しよう。


「盗賊たちが軍隊蜂の蜂蜜を狙っていると聞いて、ここで待ち伏せしていたんだ」

「チッ。本当に計画を漏らしやがった裏切者がいたみたいだな。まったく、馬鹿な奴がいたもんだぜ」


 顔つきが変わる盗賊たちは、俺に対する警戒心を強めてきた。


 しかし、ここで怯むわけにはいかない。


「盗賊たちが軍隊蜂の蜂蜜を運んだところで、買い取ってくれる人なんていないんじゃないのか? 街に運んでも、お前たちが捕まるだけだぞ」

「くだらねえ問いかけだな。こんな馬鹿げた行為、販路もなくやるわけねえだろ。すでに取引は成立済みなんだよ」


 随分と計画的に行動しているみたいだが、高額取引できるほど裕福な人と繋がりがあるとは思えないし、自分たちで軍隊蜂の情報を集めたとも考えにくい。


 かなり頭の鋭い人間が画策して、盗賊たちを動かしているような気がした。


 軍隊蜂の蜂蜜を大量に買い取れるだけの資金があるとしたら、傲慢な貴族か、冒険者ギルドか、商業ギルドか……。


 追手が来ることを怖がっているようなので、思った以上に危険な人物が関与しているのかもしれない。


「お前たちは、軍隊蜂の蜂蜜を手に入れるための捨て駒要因になるだけかもしれないぞ。軍隊蜂の巣を強襲して、タダで済むと思っているのか?」

「おいおい、そんな脅しが効くわけねえだろ。誰が軍隊蜂を山の外れに追いやったと思ってるんだ? 奴等がここから離れたことくらい、ハッキリとわかってんだよ」

「俺が言いたいのは、そういう意味じゃない。もし軍隊蜂が街に報復行為を行なったら、取引できるような状態ではなくなる、という意味だ」

「ああ? さっきから変なことを言う奴だな。軍隊蜂は花のある地域しか移動しねえ魔物だろ。そのために、わざわざ街道付近の花を枯らせて、通り道を遮断……」


 流暢に話す盗賊の(かしら)だったが、何か引っかかることがあったみたいで、顔をしかめた。


「お前、本当に俺たちの計画を聞いたのか?」


 ドキッ! とするほど痛いところを突かれて、俺の鼓動は急激に加速する。


 盗賊たちに話を合わせて情報を聞き出そうとしたが、肝心なところを聞く前に気づかれてしまった。


 ただ、これまでの会話が無駄だったかと言われれば、決してそういうわけではない。


 なぜなら、彼らが緻密な計画を立てていることが判明したのだから。


 クレアの言葉を思い返してみると、そのことがよくわかる。


『山を下りちゃったら、急にお花がなくなっちゃったね。大きな道に出ても、一つも見当たらないよ』


 彼女の言葉を聞いた後、街道の花を注視したら、不自然に枯れているような形跡があった。


 どうやらあれは、思い違いではなかったらしい。


 すべては軍隊蜂の蜂蜜を手に入れるために、盗賊たちが計画的に行動してきたことだったんだ。


 そんなことを考えていたのも束の間、背後にいる盗賊たちが怪しむように目を細めてくる。


「兄貴、よく見てくだせえ。こいつ、武器も持ってねえっすよ」

「見た目通りに弱そうじゃねえですか?」

「こんな普通のオッサンが追ってなんて、おかしくありやせんかね」


 お前たちの方がオッサンだろ、と反論したいところではあるが、火に油を注ぐような真似はしたくない。


 それに、盗賊の(かしら)はまだ疑いの目を向けてくれているみたいだから、もう少し時間を稼げるはずだ。


「待て、お前ら。軍隊蜂の縄張りに先回りするなんて、普通の人間にはできやしない。こいつ、実は魔物なんじゃねえか? 魔物に味方になる人間なんて、この世に存在しないだろ」

「……そうとは限らないだろ。俺は人の心を持たない盗賊より、花が好きな軍隊蜂の方につくぞ」


 俺が口にした言葉は、この世界の常識を逸脱した考えだと理解している。


 ただ、それがどれほど馬鹿な考えなのかは――。


「「「プハハハッ!」」」


 盗賊たちが腹を抱えて笑う姿を見て、明確に理解することができた。


 こんな奴等からも学ぶことがあるだなんて、意外だな。


 異世界の生活に馴染むためには、もっといろいろ学ぶ必要があると痛感させられる。


「兄貴、俺が本当に人間かどうか確認してきますよ。何色の血が流れているか、斬り刻めばすぐにわかりますぜ」

「待て。こんなイカれた野郎に関わっている場合じゃねえ。待ち伏せしていたなら、何か罠があるかもしれねえぞ。ここは()()に対処させる」


 不敵な笑みを浮かべた盗賊の(かしら)は、ポケットから笛のようなものを取り出し、それを口にくわえた。

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