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第48話:枯れた花畑

 軍隊蜂の様子がおかしかったため、アーリィとクレアに声をかけて、俺たちは彼らの後を追った。


 すると、何体もの軍隊蜂が肩を落とす場所に案内される。


「小さな花畑……()()()場所、みたいだな」


 目の前に広がるのは、花々が枯れ果てている無残な光景。


 魔物や人に荒らされたのではなく、急速に腐敗してしまったかのような不自然な光景だった。


 この地域が穏やかな気候で、植物が栽培しやすい環境だと考えると、到底納得できることではない。


 花にも寿命があるとはいえ、この光景は明らかに様子がおかしかった。


 軍隊蜂が肩を落とす中、俺も呆然と立ち尽くしていると、クレアが何かを見つけたみたいで、しゃがみこむ。


「ねえ、アーリィ。これって……」

「そうね。そのボトルは見覚えがあるわ」


 地面に落ちていたボトルを手に取ったアーリィは、その中に入っていた液体の香りを嗅いだ。


「間違いないわ。盗賊たちの仕業ね」

「例の毒、か……」

「ええ。あの時にかけられたものと、同じ香りがするわ。ただ、これはかなり強い香りがするから、おそらく原液ね」


 ウルフに追われていた時、盗賊に毒をかけられたはずのアーリィが動けていたのは、希釈された影響だったのか。


 クレアと一緒に逃げ回ったことで、徐々に毒が循環して、貧血のような症状を起こしてしまったんだろう。


 枯れた花畑に近づいたウサ太も、地面から刺激臭を感じるみたいで、不快感をあらわにしていた。


「きゅ~……」

「無理に近づくなよ。揮発性の毒があるかもしれないからな」


 この光景を見れば、盗賊たちに敵意を向けられていることは明らかだが……、こんなことをする理由がわからなかった。


「どうして盗賊が、わざわざこんな場所に毒を撒いたんだ? 軍隊蜂を怒らせて、街を襲わせようと画策でもしていたんだろうか」

「その可能性はないわ。軍隊蜂が花に執着する魔物だなんて、一般的には知られていないことだもの」

「じゃあ、何のためにこんなことを……」

「わからない。でも、盗賊が求めているものなら、一つだけあるんじゃない? ここが軍隊蜂の縄張りだとわかっていれば、誰でも高額なものがあるとわかるわ」

「軍隊蜂の蜂蜜、か」

「ええ。それ以外に考えられないわね」


 アーリィの言う通り、相手が盗賊であれば、軍隊蜂の蜂蜜を目的とした可能性が高い。


 しかし、一国の軍隊に匹敵する力を持つ魔物を相手に、盗賊たちが挑もうとするのは無謀すぎる気がする。


 現に軍隊蜂を見る限り、蜂蜜が奪われた様子はなく、花畑が枯れてしまったことに悲しんでいるだけだった。


「小さな花畑に被害を出しただけで、盗賊たちが引き下がるとは思えないよな」

「そうね。この場所だけに被害を与えたのも、確実に軍隊蜂の蜂蜜を手に入れるための戦略の一つかもしれないわ」

「毒の入手経路も気になる。厄介なことになってきたな」


 頭を抱え込みたくなるほどわからないことが多いが、一つだけ確かなことがある。


 盗賊たちは、軍隊蜂の縄張りに侵入して、花畑を荒らす手段を持っているということだ。


 もしこの行為がエスカレートして、軍隊蜂の巣や花畑を過剰に荒らしてしまったら……。


 軍隊蜂が近隣に住む人間たちの敵対行動だと判断して、カルミアの街に報復する可能性が出てきてしまう。


「街に行って、このことを報告した方が良さそうだな。街道の警備を増やしてもらえば、盗賊たちも身動きが取りにくくなるだろう」

「無理よ。冒険者ギルドや街の領主様も動かないと思うわ」

「軍隊蜂の蜂蜜が奪われ、街が襲われる危険性がある、と言ってもか?」

「そんな話、信じられるはずがないでしょう? 盗賊が一国の軍隊を脅かす、と言っているのと同じことよ」


 ……確かに、それもそうか。


 現在の状況を正しく判断できる知識と情報を併せ持っていないと、この危険性を認識することはできない。


 俺たちがどれだけ懸命に訴えたとしても、馬鹿馬鹿しいと思われるだけで、話を聞き入れてもらうことは難しそうだった。


「援軍を求めることはできそうにないな」


 仮に力になってくれる人がいるとすれば、イリスさんしか思い当たる人がいないが……。


 人間の問題に踏み込むのは消極的な印象だったので、特別な事情でもない限り、彼女が手を貸してくれるとは思えなかった。


 まあ、気軽に連絡を取る手段もないし、いつまでも女神様に頼ってばかりはいられない。

 

 今後も同じような危機があると考えたら、この地に生きる多くの仲間と共に乗り越えるべきだろう。


「じゃあ、この場は俺たちで対処するしかないか」

「ええ。盗賊の好きにはさせられないわ」

「蜂さんが可哀想だもんね」

「きゅーっ! きゅーっ!」


 相手は本物の盗賊だぞ……と思う気持ちはあるものの、軍隊蜂が肩を落とす姿を見ていると、何とかしてやりたい気持ちも湧いてくる。


 こっちは元サラリーマンの俺と、病み上がり冒険者のアーリィに、見習い魔法使いのクレア。


 そして、なぜか強いホーンラビットのウサ太しかいない。


 とても貧弱なパーティで、盗賊たちの方が強そうに感じるが……。


 この山で生きていくためには、やるしかない。


 持ちつ持たれつ、それがこの山のルールなのだから。


「盗賊たちの対処法はともかくとして、枯れた花畑を再生させる方法なら心当たりがある。軍隊蜂の蜂蜜で毒を中和して、栄養剤を使えば、少しずつ元通りになるはずだ」


 時間はかかるかもしれないし、完璧に元に戻る保証はない。


 ただ、同じ人間の仕業とわかっても、俺たちに攻撃してこない軍隊蜂のために、何とかしてやりたいと思った。

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