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第4話:水の調達

 拠点の裏手に森が広がっていたため、そっちの方が資源がありそうだと思った俺は今、その中を歩いていた。


 ここにも花が咲いているだけでなく、赤い木の実や見たこともないキノコがたくさん生えている。


 毒キノコの恐れがあるので、無暗に採取することはできないが、豊かな土地なんだと思った。


「食べられるものが判断できるようになれば、安定して食料を確保できそうだな。まあ、植物に詳しい人でない限り、それが一番難しいことだとは思うが」


 そんなことを考えたのも束の間、これまでの落ち着いた雰囲気から一変して、身の危険を感じる光景が目に映る。


「どうしてここの木々だけボロボロなんだ……?」


 この場所だけが荒れ果てたかのように、いくつもの木々に切り傷や噛まれた痕跡があり、根元からなぎ倒されていた。


 大きな魔物が暴れたのか、凶暴な獣でもいるのかはわからない。


 ただ、かなり時間が経過している様子なので、すでに危険は過ぎ去ったように感じるが――。


「本当にこんな山の中に住んでも大丈夫なんだろうか」


 不安な気持ちが芽生えた俺は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


 女神様が危険な地域に転移させるはずがない……と、断言できればよかったのだが、現実は違う。


『今からあなたを送る場所は、アッシュリア地方。穏やかな気候が安定していて、過ごしやすい地域よ。今はちょっと危険な魔物もいるのだけれど……ううん、何でもないわ』


 どうしてもアイリス様の不穏な言葉が頭をよぎり、不安な気持ちを抱いてしまう。


 この地域が小春日和で過ごしやすいことを考えると、アイリス様の言葉通り、危険な魔物がいると判断して間違いない。


 でも、わざわざ特別なスキルまで用意してくれたんだから、いきなり襲われるような場所には転移されることはない、はず。……たぶん。


「いや、俺はアイリス様を信じるぞ。女神様を疑うなんて、それこそ罰が当たりかねない。このなぎ倒された木々は、素材が集めやすくなったものだと考えよう」


 無理やりポジティブに考えつつも、ゴクリッと喉を鳴らした俺は、神経を研ぎ澄ませる。


 急に森の中が怖く感じてしまうが、鳥や蝶の姿が見えるだけで、魔物らしき姿は見当たらない。


 不穏な音も耳に入ってくることはなく、鳥たちのさえずりや風で葉が擦れる音が聞こえてくる程度だった。


 そして、それと同時に水が流れる音も聞こえてくる。


「……こっちの方に川がありそうだな。せっかくだから、水を汲みに向かうついでに、他の素材も集めていくとするか」


 素材に使えそうな木の枝や木片を荷物袋に集めながら歩いていくと、すぐに水の流れが緩やかな小さな川を見つけた。


 透き通るほど綺麗な水で、ゴミや汚れがまったく見当たらない。


 大きく育った魚たちが何十匹も泳いでいたり、元気よく飛び跳ねたりしている。


「おっ、あれは鮎みたいだな。メバルみたいな魚もいるぞ」


 拠点の近くに水源があるだけでなく、魚までいるのであれば、生活に困ることはないだろう。


 早くも食料に目処がついたというのは、かなり有意義な情報ではあるんだが……。


「俺は釣りをしたこともなければ、泳いでいる魚を捕まえたこともないんだよなー」


 せっかくの機会だから、釣りに挑戦したい気持ちはあるものの、今はその道具がない。


 まずは目先の利益に囚われるのではなく、飲み水の確保を優先して、堅実に生きることを考えるべきだろう。


 食料があるのであれば、木をなぎ倒した魔物が戻ってくる可能性もあるのだから。


「ここは見知らぬ異世界の地であり、助けてくれる人は誰もいない。生活基盤を作るためにも、しっかりしないとな」


 川の水を桶ですくった俺は、こぼさないように慎重に来た道を戻っていく。


 人が通ることを想定されていない道なので、水を運ぶとなると、かなりバランスが取りにくい。


 こうした作業を繰り返すことを考えると、体力や筋力がつくまでの間は苦労しそうな気がした。


 水ばかりに気を取られるわけにはいかないため、周囲を警戒しながら拠点に戻っていると、先ほどの一角獣を発見する。


「デザートに野草でも食べているみたいだ。一角獣がのんびりと過ごしているくらいだから、今は安全なのかもしれない」


 食事の邪魔をするのは悪いと思い、そのまま立ち去ろうとするものの、向こうも俺の存在に気づいた。


 すると、こっちに近づいてきて、構ってほしそうに足元を走りまわる。


「ニンジンを一本あげただけで、随分と懐いてくれたみたいだな」

「きゅーっ、きゅーっ」

「よしっ。せっかく仲良くなれたんだから、この一角獣に名前をつけよう。ウサギの魔物だから……、ウサ太にするか」

「きゅーっ!」

「気に入ってくれた、ということにしておこう。俺の言うことをどこまで理解しているのか、わからないからな」


 こうして俺は、異世界で初めてできた仲間を連れて、拠点の方へ歩いていくのであった。

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