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第27話:大人びた女の子

 軍隊蜂に護衛してもらうことが決まると、街に向かうため、俺たちは急いで出発の準備を整えた。


 イリスさんからもらった硬貨と、換金できそうなトレントの爺さんのリンゴを荷物袋に入れる。


 万が一の事態に巻き込まれる恐れもあるため、アーリィが使っていた剣を借りることにした。


 本物の剣を持つなんて生まれて初めての経験だが、クワを持って街に向かうよりはいいだろう。


 殺傷能力の高い武器の方が魔物に対しても有効だし、街に着いた時に変な目で見られなくても済むから。


 一方、すでに準備を終えたクレアは、必死にアーリィに話しかけていた。


「アーリィ。ねえ、アーリィってば~」

「う~ん……」

「トオルと一緒に街に行ってくるね。危ないから、小屋から出ちゃダメだよ?」

「……うん」


 ポーションを飲んだとはいえ、アーリィはまだ意識がハッキリとしない。


 目を覚ますものの、疲れが溜まっているみたいで、またすぐに眠ってしまった。


 今は無理させるよりも、しっかりと寝かせておいた方がいいだろう。


 早く体を起こせるようになることを願うばかりであった。


 再び眠りにつくアーリィの姿を見届けた後、俺はクレアと向かい合う。


「街でのんびりしたい気持ちはあるが、日が暮れるまでには帰ってきたい。できるだけ早く行って、買い出しを済ませるぞ」

「うん……。でもね、トオル。一つだけ問題があるの」

「ん? どうしたんだ?」

「アーリィと私、お金を持ってないの。ウルフに追われた時に財布を落としちゃったみたいで、荷物袋に入ってなくて……」


 しょんぼりしたクレアの姿を見る限り、嘘をついているようには見えなかった。


 俺が持っている硬貨にどれくらいの価値があるかはわからないが、立て替えるくらいは問題ない……というより、子供に金を出してもらおうという発想がなかった。


 しかし、非常事態とはいえ、アーリィやクレアの生活費を全額負担するのは、確かに褒められた行為ではない。


 互いのためにも、一線を引いて生活した方が……と考えていると、クレアが勢いよく頭を下げてくる。


「お願い、トオル。さっき言ってたお花の手伝い頑張るから、お金を()()()()()()()。アーリィが元気になったら、治療費を払い終えるまでずっと手伝うから」


 今までアーリィとクレアが、どういう生活をしてきたのか、俺にはわからない。


 ただ、『仕事を手伝う代わりにお金を貸してほしい』と口にするクレアは、見た目以上にしっかり者で、大人びた考えをする子だと思った。


 普通の子供であれば、自分たちが置かれている立場を考えることもなく、ねだってきてもおかしくはない。


 しかしクレアは、小屋に泊まっていることや食事をもらっていることを考慮して、これ以上は甘えるわけにいかないと、お金を貸りようと考えたんだ。


 ここで優しい言葉をかけるのは、簡単なことだが、過度な優しさは不安を増長させる恐れがある。


 必要以上に肩入れするよりも、クレアの意思を尊重した方がいいのかもしれない。


 子供だからと甘やかすのではなく、対等な関係を築くように心がけてみよう。


「クレアの気持ちはよくわかった。今回の買い出しで必要な金は建て替えておくから、頑張って働いてくれ」

「……うんっ!」

「それともう一つ。正式にクレアに仕事を頼もうと思う」


 思ってもみないことだったのか、クレアはキョトンッとした表情を浮かべる。


「街の案内と花の栽培、畑仕事の手伝いと、仕事はいろいろある。報酬はあまり出せないが、クレアが住み込みで働いてくれるのであれば、衣食住は保証しよう。それで仕事を引き受けてくれないか?」

「……うんっ! ありがとう、トオル!」


 花が咲くようにパアッと素敵な笑顔を作ったクレアは、勢いよく抱きついてきた。


 こういうところは、まだまだ子供っぽい。


 これで食事したり、寝泊りしたりしても、彼女が後ろめたい気持ちを抱くことはないだろう。


「よしっ。じゃあ、今度こそ街に向かうぞ」

「おーっ!」

「きゅーっ!」


 元気を取り戻したクレアと共に、俺たちは街に向かって歩き出していくのだった。

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