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モフモフ好きのオッサン、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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110/111

第110話:双子

 突如生まれた双子トレントは、大勢の魔物たちに囲まれながら、盛大にお祝いされていた。


「うわぁ~! 可愛いー! 見てみて、私よりも背が小さいよ!」


 クレアは初めて見るであろう魔物の赤ちゃんを前に、興奮冷めやらぬ様子である。


 その一方で、ウサ太とニャン吉は体格で負けていると認めたくないのか、必死に慎重を高く見せようと頑張っていた。


「きゅー! きゅー……!」

「ニャウー! ニャウ……」

「きゅー……!!」


 ニャン吉が負けたことをアッサリ認める中、先輩のプライドが許さないウサ太はムキになっている。


「きゅー……! きゅ……」

「ニャウ~」


 そんなウサ太が敗北感に打ちひしがれ始めると、ニャン吉が慰めてあげていた。


 種族が違う分、体の大きさで競う必要はないと思うが……。


 ウサ太は先輩風を吹かせたいタイプなので、さすがに赤ちゃんには負けられないと思ったんだろう。


 角が生えきっていないウサ太もまだまだ子供なんだから、気にしなくてもいいと思うんだけどな。


 ガサガサ

 ガサガサ


 しかし、純粋無垢な双子トレントには、ウサ太の気持ちが伝わらない。


 大勢の軍隊蜂が祝ってくれていることもあり、にこやかな表情を浮かべたままだった。


 そんな双子トレントに対して、俺は一番気になっていることを聞いてみる。


「生まれたばかりでも、トレントの果実は生成できるものなのか?」

「……」


 トレントの爺さんがニッコリッと笑みを浮かべて、双子トレントの方に視線を向けた。


 それに応えるかのように、双子トレントは身を縮めるように目をギュッと閉じて、力を蓄える。


 これにはウサ太や軍隊蜂の注目も集めたため、周囲は静寂に包まれた。


 子供の発表会を見守るような妙な緊張が生まれる中、双子トレントがパアッと目を開けると、急速に枝が成長する。


 ……ガサ!

 ……ガサ!


 その成長した枝には、それぞれバナナとブドウが一房ずつ実っていた。


「おお……! トレントが果実を作る力は、生まれつきだったのか」


 誰も気にしていないであろう魔物の謎が解けた瞬間である。


 ただ、どうやら同じトレントであっても、デフォルトで作り出す果物は違うらしい。


 トレントの爺さんはリンゴで、双子トレントはバナナとブドウだった。


 きっと魔物の種類が異なり、双子トレントは亜種のような存在になっているんだろう。


 魔物の生態系は興味深いな……と感心していると、双子トレントが枝を伸ばして、作ったばかりの果実を差し出してくれた。


 せっかくなので、記念すべき第一号をありがたく受け取らせてもらうとしよう。


「もうこんな立派な果実が作れるなんて、偉いんだな。これをもらう代わりに、植物の栄養剤をあげよう」


 ガサガサッ

 ガサガサッ


 枝葉を大きく揺らす双子トレントの姿が、お年玉で喜ぶ子供のように見えてしまった。


 ……大量のリンゴを実らせる大きな子供もいるみたいだが。


 ガサガサッ


「トレントの爺さんも元気そうで何よりだな」


 アイテムボックスに栄養剤を取りに向かい、お返しに栄養剤をあげると――。


「全員同じ顔になるのか」


 露天風呂に入った孫子のような雰囲気を発していた。


 思わず、これにはアーリィとクレアも興味深そうに観察している。


「間違いなく親子ね。栄養剤に対する反応がそっくりだわ」

「うんっ。気持ちよさそうだよね~」


 恍惚な表情を浮かべる双子トレントの姿を見ていると、いい頃合いだったのか、軍隊蜂が森の奥へ帰り始めた。


 ちゃんとハニードロップを持ち帰るあたり、抜け目がない魔物である。


 そんな軍隊蜂の姿を見送った後、俺たちはトレントの爺さんが実らせてくれたリンゴを採取することにした。


 たった数日の間だったが、こうして再びトレントの爺さんから果実を採取できるようになるだけでも、感慨深いものがある。


 何気ない異世界の日常が戻ってきたような気がして、妙に嬉しかった。


 アーリィとクレアも同じような気持ちを抱いているみたいで、意気揚々と採取している。


「心配していたことが嘘みたいね。まさかトレントの子供が生まれるとは思わなかったわ」

「びっくりだねっ。でも、私は新しい仲間ができたみたいで嬉しいな~」

「そうね。冒険者としては間違っているかもしれないけど……個人的には、悪い気持ちじゃないわ」

「アーリィは難しく考えすぎだよー。素直に喜んだらいいのに。はいっ、ウサちゃん。これを拠点に持っていって」

「きゅーっ!」


 アーリィとクレアを中心にして、リンゴの収穫が始まった。


 見慣れた光景とはいえ、再びこうした光景を見られると、どこか心がホッとする。


 俺も収穫を手伝うか……と思ってトレントの爺さんに近づく中、ニャン吉だけは手伝うこともせず、なぜか森の方に向かっていった。


 しばらくすると、ニャン吉が一人の女性の肩の上に乗って、一緒に戻ってくる。


「あらっ。魔力をため込んでいると思ったら、やっぱり繁殖したのね」

「ニャウ~」


 どうやらイリスさんが来るとわかり、出迎えに行ってくれたらしい。


 相変わらず、イリスさんにしっかりと懐いているニャン吉なのであった。

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