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第105話:魔法の練習

 軍隊蜂の縄張り調査を終えて、一か月が過ぎる頃。


 サウスタン帝国の野望が(つい)えたこともあり、軍隊蜂は元の生活に戻ろうとしていた。


 リーフレリア王国で暮らしていた軍隊蜂とサウスタン帝国側に追いやられていた軍隊蜂が合流しているのだ。


 今や、国境には軍隊蜂が集まりつつあり、事態は収束に向かっている。


 これで街道付近に軍隊蜂が現れる問題も、無事に解決することができるだろう。


 今後のルクレリア家の対応次第だが、リーフレリア王国と軍隊蜂が争う必要もなくなった気がした。


 逆に、商業ギルドのギルドマスター、マルクス・ゴードン伯爵が売国行為が発覚したので、今は国内に目を向けるべきだろう。


 ゴードン伯爵家だけが売国行為をしていたのか、それとも、他にも反乱分子がいるのか、ハッキリさせた方がいい。


 まあ、そんなことまで俺が関与する必要はないので、その恩恵だけをいただくことにしよう。


 たとえば、すっかり雰囲気が変わった商業ギルドとの取引、とかである。


「ささっ、トオル様。こちらがご注文いただいておりました砂糖と小麦粉でございます」


 そう言いながら手を揉みしだく小太りのオッサンが、新しい商業ギルドのギルドマスターだ。


 前のギルドマスターとシルエットは変わらないものの、穏やかな性格をしていて、対応がいい。


 これが彼の本当の姿なのか、ルクレリア家の厳しい監査が入った結果なのかはわからないが、平民の俺を毛嫌いするようなことはなかった。


 おそらく後者だろうなーと思うのは、新しいギルドマスターが大量の冷や汗を流しながら、俺の対応を見守っているからである。


「ど、どうでしょうか。お気に召していただけましたか?」

「はい。どうもありがとうございます」

「とんでもございません。またのお越しをお待ちしておりますので、なにとぞ……、なにとぞ……!」

「そこまで畏まらなくても大丈夫ですよ。俺はただの客ですからね」

「何をおっしゃいますか! あのルクレリア公爵家と交流があると聞いております。そのような方に失礼がありましたら、私が……いや、商業ギルドがルクレリア公爵に反逆しているようなものであって……」


 本当に貴族は敵に回さない方がいいんだなーと、思ってしまうのであった。


 ***


 商業ギルドで購入した荷物を持った俺は、街の外でウサ太と合流して、すぐに拠点に戻ってくる。


 その庭では、険しい表情で杖をかざすクレアと、槍を構える軍隊蜂の姿があった。


「むむむっ……ストーンバレットッ!」


 力強い目つきをしたクレアが土魔法を唱えると、小さな石の塊が軍隊蜂の方に飛んでいく。


 しかし、一国の軍事力を誇る軍隊蜂に対して、その攻撃は無に等しいようなもの。


 槍を突き出した軍隊蜂は、見事にクレアの土魔法を打ち砕いていた。


 そんなことをしている両者は、決して争っているわけではなく――。


「ねえねえ、だいぶ良い感じになってきたよね?」


 コクコクと頷く軍隊蜂が、クレアに稽古をつけてくれている。


 魔物を討伐するための魔法を、軍隊蜂にトレーニングしてもらうというのは、ちょっぴり不思議な光景だ。


 ただ、本人たちが納得しているのであれば、それでいい気がする。


 なんといっても、実践的な攻撃魔法を扱えるようになったクレアは、ようやく見習い魔法使いという立場を卒業したのだから。


 熱湯を作り出そうとしてバテていた頃が懐かしいなーと思いながら、俺はウサ太と共にクレアたちの方に近づいていく。


「ただいま。もうすっかり魔法使いの風格が出ているな」

「あっ、トオル! おかえり!」

「きゅ~!」

「ウサちゃんもおかえり~」


 俺たちが声をかけたことで一気に気が緩んだのか、ウサ太をモフモフしに来たクレアが、特訓を中断して出迎えてくれる。


 しかし、律儀な軍隊蜂がその姿につられることはなく、敬礼して出迎えてくれていた。


「クレアの無茶なお願い聞いてもらって、悪いな」


 ブンブンッと横に首を振る軍隊蜂は、とても気遣い上手である。


 これくらいのことでお役に立てるのであれば、と言わんばかりに、真剣な表情を浮かべていた。


 もしかしたら、サウスタン帝国との一件があって、軍隊蜂も魔法を使う人間と戦う訓練がしたかったのかもしれない。


 それを考えると、俺たちがやっていることは、果たして良いことなのか悪いことなのか……。


 なんとも言えない気持ちになるものの、クレアが立派な魔法使いとして成長してくれるのであれば、良いことだと考えるようにしよう。


「クレアもあまり無茶はするなよ。魔法で花を傷つけたら、大変なことになるからな」

「うんっ、大丈夫だよ。最近は攻撃魔法の扱いにも慣れてきて、熱湯を出すのも楽になったの。これからは、毎日でもお風呂に湯が張れるよ!」


 この訓練は、俺たちにとって非常に有用なものである。


 軍隊蜂たちよ。力を貸してくれて、本当にありがとう……!


 思わず、俺が感謝の意を表すために敬礼を返した。


 すると、タイミングを見計らっていたかのように、背後からガサガサと音が聞こえてくる。


「ニャウ~」


 どうやらトレントの爺さんの葉に隠れて、ニャン吉が昼寝をしていたみたいだ。

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