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第10話:危険な魔物

 トレントの爺さんの元に向かっていると、突然、激しい物音と獣のような唸り声が聞こえてきた。


「今まで安全に過ごせていたが、なかなかそうもいかないよな」

「きゅー」


 俺はウサ太と共に木に隠れて、物音の正体を確認しようと、コッソリと覗き見る。


「ガルルルル」

「ウウウウウ」


 勢力争いでもしているのか、二体のウルフが睨み合い、互いにけん制していた。


 すでに戦っている最中のようで、それぞれの体に大きな傷がつき、出血している。


 かなり興奮状態にあるため、俺たちのことに気づいていない様子だった。


「急いでいるところだが、不用意に刺激するべき相手ではないよな」


 運動音痴の俺と、草食系の魔物であるウサ太では、ウルフに太刀打ちできるはずがない。


 すぐにでもトレントの爺さんに栄養剤を届けてやりたい気持ちはあるが、そんなことを言っている場合ではなかった。


 奴らが争っている間に逃げて、まずは安全確保を優先するべきだろう。


「ウサ太、今は逃げるぞ。できるだけ音を立てるなよ」

「きゅー」


 身を低くして、ゆっくりその場を離れようとした、その時だ。


 急に異音が聞こえて、状況が一変する。


 ブーンッ ブーンッ ブーンッ


 群れを成した軍隊蜂が、すごい形相で飛んできているのだ。


 その羽音に気づいたウルフたちは、争うことを辞めて、逃げようと試みる。


 しかし、逃げきれそうな雰囲気はなかった。


 争っていたダメージが残っているのか、軍隊蜂が速すぎるのかはわからない。


 あっという間に追いつかれたウルフたちは、軍隊蜂に囲まれてしまう。


「ガルルルル」

「ウウウウウ」


 逃げ場を失ったウルフたちは、一矢報いるように襲い掛かる。


 だが、その攻撃が届くことはない。


 一斉に襲い掛かってきた軍隊蜂の鋭い槍に突かれて、息絶えていった。


 その光景を見た俺は、あまりにも一方的な展開だったため、思わず息を呑んでしまう。


「軍隊蜂は、思った以上に強い魔物だったんだな……」


 花の世話をしていた時の穏やかな性格だった軍隊蜂とは違う。


 蜂の魔物に相応しい戦闘力を持ち、集団で襲い掛かる凶悪な生き物のように思えてしまった。


 おそらく、この森を荒らす魔物たちは、こうして軍隊蜂の手で駆逐されているんだろう。


 正確にいえば、花を荒らす魔物は、駆逐されるのかもしれない。


「錬金術の素材に必要だからといって、花を採取するのはやめておいた方が良さそうだ。無論、蜜のない花もあるだろうから、すべての花を対象としているわけではないと思う。ただ、採取を避けた方が無難だよな」

「きゅー?」

「……もし俺が、採取してはならないものに手を出そうとしたら、ウサ太が全力で止めてくれ」

「きゅーっ!」


 軍隊蜂と付き合いの長いウサ太の方が、俺より適切な判断を下すことができるはずだ。


 自分でも注意するべきだと思うものの、異世界では何が起こるかわからない。


 ウサ太を頼りにさせてもらうことにした。


「魔物に襲われないようにするため、周囲を警戒することも大切だが、足元の花も気をつけなければならないなんてな……。異世界で暮らすことの難しさを痛感している気がするよ」


 軍隊蜂と敵対すると、俺もウルフと同じ運命をたどりかねない。


 絶対に花を踏まないように足元を注視して歩こうと決意して、再びトレント爺さんの元へ向かっていくのだった。

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