薬草探し
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
誰かの話し声が聞こえてくる。
「やっぱさー、あいつが学年1位とかありえなくない?」
「ほんとそう。蒲原君が1位なら全然信じれるんだけどさ、2位なんだって。」
「まじ?あいつカンニングでもしてたんじゃね?ありえないじゃん。」
「あり得るかもよ、カンニング。蒲原君とあいつ席近いじゃん。」
声の主は同じクラスの子たちだった。
そんなことしてないのに……と思いつつ、気持ちを切り替えようとした。
それでも自然とテストを握る手に力が入っていた。
くしゃり、とテストを握りしめる音が廊下に響いた。
その音でこちらに気づいたのか、クラスの子たちはこちらを見た。
……。
無言の空気が広がっている。
「行こ。」
「う、うん。」
そんな空気に耐えきれなかったのか、クラスの子たちはその場をそそくさと離れていった。
後にはくしゃくしゃの満点のテストと私、そして蒲原が残された。
「俺はそんなこと思ってないからな。絵理奈、頑張ってたじゃんか。」
頑張ったのに、そういう気持ちが私の中で渦巻く。
無言で立っている私に気を使ったのか、蒲原は話しかけてくる。
でもそれは火に油をドバドバ注いでいるようなものだ。
「気にすんなって。あんなのひがみなんだからさ、言わせとけばいいんだよ。」
まだクラスの子たちは近くにいるのに。
「さ、帰ろうぜ。」
そう言う蒲原の顔は笑っていた。
「あ、そうだ。せっかく俺に勝ったんだし、なんか奢るよ。何がいい?」
気にしないように、という気遣いがひしひしと感じられる。
苦しかった。
今までだってずっと頑張ってきた。
やっと努力が結ばれたと思っていたのに。
一緒に喜べると思っていたのに。
昔みたいに笑ってまた一緒に勉強したり、遊んだりできると思っていたのに。
なのに、私は……。
目が覚めた。
また、同じ夢。
ずっと、同じ。
あの時から、変わることのない夢。
私はあきらめていた。
目を開けると、何かがおかしかった。
体調は悪くないのだが、感覚が今までで感じたことのないほど研ぎ澄まされている気がする。
なんでだろうか。
空気の流れをより強く感じる気がして何か違和感が強い。
すると、誰かが歩いている音が聞こえてきた。
部屋の前で立ち止まっている気配もする。
コンコン、とドアをたたく音が部屋に響いた。
「エリナ?起きてる?」
フェンだった。
「今、起きた。入っていいよ。」
そう答える。
「おはよう。眠れたかしら?体調とかはどうかしら?」
部屋に入ってくるなりフェンは聞いてきた。
「なんだかとてもいいの。何でもできそう。なんか変な感じだけどね。」
「あぁ……。やっぱりなんでもやりすぎなのよね。流石、エレンと言うべきかしら。」
「この違和感はエレンのせいなの?」
「過剰回復の副作用よ。なんでも力任せにすればいいってもんじゃないのよね。」
あきれたようにこちらを見てくるが、それは私のせいではないしなぁ……と思いながらこしかけていたベットから立ち上がる。
想像していたよりも体が軽い。
まぁ、困ることもないしと気にしないことにした。
「ん?」
きれいに朝ごはんが並べられた机にバリスが座っていた。
「エリナを呼んできたわ。」
「おはよう、バリス。」
「あ、おはよ!エリナ。」
バリスは朝から元気だ。
「さぁ、いただきましょうか。」
フェンの掛け声で私たちは朝ごはんを一緒に食べ始めた。
「今日は薬草を取りに行きたいの。ついてきてくれるかしら?」
「わかった。エリナも行くでしょ?」
「わかった。行く。」
フェンが昨日言っていた手伝い、とはこれの事だろう。
朝ごはんを食べながら、探している薬草の特徴を聞いていた。
山の中で作業しやすい服装をフェンがそろえてくれた。
それに着替えて支度をし、薬草取りに出発した。
バリスは歌の練習をするらしい。
エレンの回復のおかげか、探していた薬草をすぐ見つけることが出来た。
フェンがあったらすぐ教えなさいと言っていたかなり貴重らしい薬草もいくつかみつけることもあった。
「エレンもたまには役に立つのね。」
フェンはそう言っていたが、なんだか少し嬉しそうだった。
「じゃあ、そろそろお昼にしましょうか。バリスはどこかしら?」
少しバリスのいる場所と離れてしまったらしい。
フェンにはバリスの歌声が聞こえていないらしい。
「フェン、こっちからバリスの歌が聞こえる。」
「あら、そう?じゃあバリスのところへ行きましょうか。」
「うん。こっち。」
フェンと一緒にバリスのもとへ移動しようとしたその時、あの化け物の襲い掛かるような鳴き声があたりに響き渡った。
「フェン、聞こえた?」
「ええ。バリスが危ないかもしれないわ。急ぎましょう!」
そういうと、フェンは走り出した。
私も走り出す。
すぐさまフェンを追い抜くと、バリスのもとへと向かう。
木々の間をすり抜けるように走り、バリスの姿をとらえた。
バリスは化け物の鳴き声におびえていた。
よく見ると、化け物は木々の生い茂る暗闇の中からバリスの方に向かって唸り声をあげている。
「バリス!」
そう叫びながら、私は化け物の意識がバリスから自分の方へ向かうように化け物の目の前に立ちふさがる。
化け物の目は憎しみのこもった目でこちらをにらんでいた。
何だ?、と少し引っかかったが、今はそれどころではない。
「エリナ!あんたこっからどうするのよ!」
なんとか追いついてきたフェンが状況に驚きながらも叫ぶ声が響く。
「なんとかする!バリスよろしく!」
そう叫ぶしかなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の土曜日に出す予定です。
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