崖下の茶会
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
「ん……」
パチパチと何かが燃えている音があたりに響いていた。
起き上がろうとするが、腕に上手く力が入らなくて起き上がることが出来ない。
「あ……れ、ここは……」
私の記憶が正しければ崖から落ちたはずだが……。
感覚がないだけで何とかなるものなのだろうか。
よくよく思い返せば10mほどはあったと思う。
下にはクッションのようなものもない。
そんなところに落ちたらどんな体勢だろうが血まみれになって死にそうなものだ。
何で助かったのか考えていると、がさがさと誰かが近づいてくるのが聞こえた。
「おっ、気が付いたんか。よかったよかった。」
あの熊の化け物から助けてくれた人だった。その後崖下に落ちた原因でもあるが。
「お茶ならあるが……。飲める状態なんかね。」
どうやら焚火はお茶を沸かしていたらしい。
飲みたいが、いかんせん体を起こせない。
そんな私の状態を見抜いたその人は優しく聞いてきた。
「大丈夫か?どっか変だなってとこあるか?あるなら出来る限り回復さしたるけ、言うてみ。」
回復……?魔法でも使えるのだろうか?
とりあえずダメもとでも言ってみようかな。
「なんかあんまり腕に感覚がなくて……。」
「そうか……。」
と、その人は残念そうにつぶやく。
「すまねぇな、あんま回復得意じゃないんでな。へたっぴなんだ。もう1回やってみっか。」
その人はぐっ、と力んだ。
ほわほわとした温かい光が私の体を包み込む。
「あ……、すごい。」
少し感覚が戻ってくるのが分かった。
「限界だ。これ以上はあんさんの体力が無くなっちまう。」
十分なほど元気になった気がする。
こんなにしてもらってありがたいな……。
そう思いながらよいしょ、と体を何とか起こすことに成功した。
「助けてくれてありがとう。」
まずはこれを言わなくちゃ、とその人に向かって深々と頭を下げた。
「そんなされるほどのことはしてないけ、頭上げてな。」
促され、私は顔を上げた。
ほら、とお茶の入ったカップを渡された。
飲んでみると、少し苦みのある、それでいて優しい味がした。
あー、自己紹介しとくかな、と持っていたカップの中身を飲み干して、その人はガバッと深々とかぶっていたフードを持ち上げた。
その人は毛先の黒い、白い短髪で、前髪の癖が強めな女性だった。
狩人なのだろうか、大きな弓を持っている。
「おいはエレン。あぁ、あんさんは名前は言わんでえぇよ。どうせ覚えんしな。」
さらっと髪の毛をかき上げながら言った。
「あ、そっか。面倒だってフェンも言ってたもの。」
「おー、フェンのとこん子かぁ。」
なら連れてってあげた方がいいな、と言ってくれた。
心強い。
回復したら出発するから、しばらくはゆっくりしなね、とエレンは言った。
お茶のおかわりをしながらここら辺に住んでいる生き物についてエレンは話してくれた。
あのうさぎのような生き物はカラビキャ、あの熊の化け物はエレバベアというらしい。
「カラビキャはかなり人懐っこい生き物だが、嫌なことをしてくる奴にゃ、容赦なく蹴ってくるんだ。あんな弱っちそうな見た目してあんさんみたいなほっそい腕なんて簡単に折れちまう。」
「え、こっわ。なんであんないるんだろ思ってたけど、やっぱり基本は人懐っこい性格なんだ。」
「そうさ。エレバベアもいつもはおとなしいんけど、なんか怒ってたな。」
「へー、なんでだろ?」
「そこまで縄張りとかも持つようなやつらじゃないんだが……。」
そんなことを話しながら、いろんなことを話した。
エレンはじゃあこれ消して出発やな、と焚火を消しながら言った。
焚火の後始末をし、エレンはその跡に向かって手を合わせた。
「何してるの?」
気になったので聞いてみると、意外な返答が返ってきた。
「感謝。」
「感謝?」
「そそ、感謝。世界は世界のものなんよ。」
「世界の、もの?」
どういう意味なのかがあまりよく分からなかった。
「この世にある自分のものは自分たちの身体だけ。他は他の人や生き物や世界のもの。自分たちで造り出したものも世界のものが姿かたちを変えただけ。」
姿かたちを変えただけ?自分たちで造り出したのに?そう思った。
顔に出ていたのか、まぁ、気にせんでなとエレンは言った。
「あんさんらやって、いただきます、とか言うやろ?そんなもんやな。世界では誰かが誰かに感謝することで成り立っているもんなんよ。」
なんとなくだが分かった気がした。
「まぁ、これもおじちゃんの教えでな、あたしの考えではないんやけど、こうしないと気持ちが悪くてな。あぁ、おじちゃんってのはおいの育て親。」
「あぁ、そうなんだ。なら私も。」
エレンと一緒に私も感謝した。
ありがとう、と。
なんだか一瞬、周りが少しうれしそうに見えた。
エレンに連れられて、フェンのところに戻ってきたころにはもう夜中だった。
フェンはこんな時間になるまで何してたの!、ととても怒っていた。
こんなケガまでして……とも。
バリスも心配してくれていた。
フェンはエレンといろいろ話している。
少しすると、エレンはじゃあねーと闇夜の中に消えていった。
フェンは少しがっかりした様子だったが、気を取り直して言った。
「さぁ、あんたはご飯食べて。バリスはもう寝る時間よ。」
「うん、おやすみー。」
「あぁ、エリナ、明日手伝ってほしいことあるんだけど、良いかしら?」
特にやることも無いので承諾した。
明日何するんだろうか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の水曜日に出す予定です。
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