森の熊さん
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
フェンが歩き出してから10分ほど歩くと、森の中に小さな小屋があった。
木で作られた小屋だ。
周りには畑が広がり、小さな動物たちがあちこちを駆け巡っている。
「ここよ。あなたはこっちの部屋を使いなさいな。バリス、手を洗ったらテーブルを拭いたりしてもらえるかしら?」
「わかった!」
そういうと、バリスは元気よく手洗い場へ向かい、手を洗うとテーブルを布巾で拭きだした。
まるで目が見えているかのように。
バリスの挙動に不思議になった私の様子を見てご飯の乗ったお皿を運びながらフェンは教えてくれた。
「あぁ、バリスはここでもう3か月ほど過ごしているの。他のとこは結構来るらしいんだけど、ここには全然あの人来ないからね……。そういえば、あんたご飯は?」
「もう食べました。」
「あら、そうなの。じゃあ、どうする?他のところ見て回るか、ここで少しつまんでいくか……。」
「じゃあ少し見て回ります。」
おなかはすいていないし、此処、イラヴェルナについてももっと知りたかった。
「夕飯時にはここに戻ってきなさいね。あ、元居た部屋には戻れないから気をつけなさい。」
え、そんなことならあの部屋もっと探索しとけばよかったな……、と少し後悔しながら外に出た。
外に出ると、なんだなんだと何匹か近くにいた動物がこちらに近寄ってきた。
うさぎのような長い耳、猫のような柔らかな尻尾、カンガルーのような袋をおなかに持っている。
あまり警戒している様子ではなさそうだ。
フェンたちが餌でも与えているのだろうか、かなり人なれしている。
「ヴェァーゴォー。」
聴いたことのない鳴き声には驚いたが、可愛らしく地面でゴロゴロしている。
なでろ、とばかりにおなかをこちらに見せてくる。
触ってみると、意外と固い感触だった。
あまり動物は好きではないが、別に悪い気はしない。
何匹かが変わりばんこになでなでを要求してくる。
要求されるまま、なでていると、一匹がどこか一点を見つめていることに気づいた。
そこを見てみると、何かがキラ、と光っていた。
何だろうか、と様子を窺うが、もう何も見えない。
気になって仕方がないので、この動物の相手もそこそこに、森の奥の茂みの中へと進むことにした。
何かが光った……そう思ったのだが、気のせいだったのだろうか。
かなり注意深く光った原因を探してずいぶん奥まで来たが、何も見つからない。
あれだけ探しても無かったのだから、木についていた水の反射とかだったのだろうか。
探すことに飽きてきて、帰ろうか……、とがっかりしながら後ろを振り向いたその時だった。
「グルルルルルルルルル……。」
唸り声と共に突如現れたのはゾウの鼻、何かの動物の角がくっついた巨大な熊のような生き物だった。
その化け物は今にも襲い掛かってきそうな雰囲気だ。
その化け物の縄張りへ、いつの間にか入り込んでしまっていたのだ。
「マジか……。」
思わずそうつぶやいた。
冷や汗が止まらない。
どうしたら生き延びれるのかが分からない。
とにかく逃げなきゃ、その一心だった。
じりじりと後ろに生き物を刺激しないように下がる。
「私なんて美味しくないよ……。」
そうつぶやきながら熊の化け物から逃げれそうな隙を探す。
化け物は唸りながらこちらへ迫ってくる。
また少し、また少しと後ろへ移動する。
その時だった。
化け物はしびれを切らして飛びかかって来た。
恐怖で体が動かない。
やられる!
そう思った瞬間、ヒュンっと空気を切り裂く音とともに足元に矢が刺さった。
「逃げろ!早く!」
フェンでもバリスでもマシューでもアスラでも無い誰かの声が森の中に響く。
バッと声のした上の方を見ると、どこから来たのか、フードを深くかぶった人が木の上から弓矢を引き絞り、生き物の方を狙っている。
「こいつはこっちで何とかするから!早く!」
その人は次の矢を放つ準備しながら叫んでいる。
「走れ!木と木の間を走るんだ!」
フードの人が放った矢が化け物の腕をかすめた。
痛かったのか、化け物は動きを少し止めた。
私はその一瞬を見逃さずに後ろを向いて全速力で走り出した。
助けてくれたのだから誰かなんて関係ない。
「こっちだ、ノロマ!」
生き物を呼ぶ声が響く。
生き物は声の方に興味を移したようだった。
私は何とか動かない足を必死で動かし、助けてくれた人にお礼も言わずに走った。
とにかく生き物から離れようと必死で走った。
死にたくなかった。
あの人が上手く誘導したのか、生き物が私の方を追いかけてくることはなかった。
10分くらい本気で走って、そろそろ大丈夫かと走るのをやめて息を整えた。
まだ脚がガクガクしている。
疲れはしばらく取れそうになかった。
「あの人は大丈夫だったんかな……。」
不安になり、そう言った。
「元気してんよー。あんさんは大丈夫やった?」
突然、後ろからあの謎の声がした。
「へっ!?」
変な声が出ちゃった、そう思った瞬間だった。
「危ない!」
謎の声の主は叫んだ。
私は崖の端っこにいたらしい。
驚いた拍子にバランスを崩し、私の体は崖下に向かって落ちていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の土曜日に出す予定です。
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