夢
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
あの時振り返るなら。
一言で言えばそう。
私が全てを壊した。
そう言えるだろう。
あの日は雹が降っていた。
とても冷たい雹。
あたるたびにその箇所が痛み、力が抜けそうになる。
力は抜いてはいけない。
その思いが私の力を何とか繋ぎ止めていた。
無くなった。
また隠された。
大切な物だったのに。
「なんか探しているのか?慧凪。」
「蒲原?どうしてここに?」
「……昔みたいに慧祐って名前で呼んでほしいんだけどな。まぁいいや。慧凪、最近困ってることないか?」
蒲原は澄んだ目でこっちをまっすぐ見てきた。
「な、何もないよ。ただ私が無くしちゃったの……け、消しゴムをね。そろそろ小さかったし買い換えようかなって。はは、大丈夫だからさ。」
「まぁ、慧凪がそう言うならいいんだけど。」
そう言って蒲原はちょっと窓の外の方を向いた。
「……さぁ、暗くなる前に帰ろうぜ。」
蒲原が放った言葉が私の心を容赦なく抉る。
「消しゴムならまた買うんだろ?何なら俺が貸しても良いし。」
誰もがその微笑みを見れば幸せな気持ちになるのだろう。
だが私にとっては地獄だった。
「ううん。ちょっとやることあるし……、先に帰って良いよ?」
そう言って私は蒲原から離れようとした。
私は私が気持ち悪かった。
私が私である限り、この感覚はきっと消えないだろう。
「……そうか。じゃあまた明日な。早めに帰れよ?なんか不審者が最近うろついてるっぽいし。」
「そうなんだ。分かった、気をつけるよ。」
そう言うと、蒲原は薄暗くなった教室を出て行った。
私の探し物は絶対に彼にバレてはいけない。
きっと私の想いに気づいてしまうから。
そんなことがあったら私は他の人たちにどんな目にあわされるかわかったものじゃない。
彼は明るく、勉強もできて運動もできて。
完璧な学年のアイドル的な存在なのだ。
釣り合うわけがないのだ。
「どこに隠したんだろう……。ゴミ箱の中とかかな……。」
私は探した。
4歳の時に彼からもらった大切なお守りを。
夢中になっていた私は誰かが教室を離れていくのに気づくことはなかった。
そいつはワナワナと体を震わせていて。
その手には薄汚れたお守りが握られていた――。
「無かったなぁ……。」
私はトボトボと家に帰っていた。
まぁ、見つけられなかったのはしょうがないしな……。
そう思って気持ちを切り替えた。
今日の学校も何とか終わったし、後は寝て明日になったら学校にまた行くだけ。
そしたらまた探してみよう。
バスは……あぁ、もう行っちゃったか。
しょうがない。
寒いけど歩こう。
時間を確認していなかったことにうんざりしながら正門を出ようとしたその瞬間、曲がり角からこちらへ走ってくる人が来た。
「わっ!」
「わわっ!……って、何してるのよ?」
「へへっ。不審者が出るって言っただろ?やっぱり1人で帰すのは流石にマズいだろうなって。」
「……嘘だ。一緒に帰る人がいなくて話し相手が欲しかったんでしょ?」
「バレたか。しょうがないじゃんか。こっちに方向に帰る人なんて大抵バスだからもう寂しくて寂しくて。」
正体は蒲原だった。
「……まぁ不審者対策も兼ねてなんだけど。」
「なんか言った?」
「なーんも?気のせい気のせい。」
何かボソッと蒲原が言った気がして聞いてみたが、そう言うのならそうなのだろう。
彼の耳は赤くなっていたが、暗闇に紛れていたので私が気づくことはなかった。
「じゃあまた明日な!」
「うん、バイバイ。」
特に話すことも無く、私と蒲原はそれぞれ家に帰った。
まさかそれが後悔の原因だなんて誰が知っていたのだろうか。
次の日は雪が降っていた。
そして、白く、灰色の空の下の橋の上で2人の声が響いていた。
茶色い水面が、二人の顔を歪ませて映していた。
「こっちに来なさいよ!このアバズレ女!」
「やめて!返してっ!」
「返すわけないじゃない!」
そう言ってその人は橋の欄干へ手をかける。
その人は目が地走り、私への強い恨みが感じられた。
「蒲原君がなんであんたなんかとつるむのよ……。こんなのより私の方がいいに決まってる!あんたがこんなの持ってるからいけないの!」
その声が聞こえた瞬間、お守りは水の流れへと重力に引っ張られていった。
「ダメッ!」
私の声も虚しく、お守りは無常にも流されていく。
彼がくれた物だったのに。
絶望に満ちた目で私はなす術なくお守りを探していた。
「とりゃっ!ヒッ、冷てぇ……。」
そんな情けない声と共に誰かが川へと入って行った。
「か、蒲原君?」
「んー……。あ!あった!慧凪!あったぞ!」
声の主は蒲原だった。
「本当⁉︎」
叫びながら私は欄干へ駆け寄った。
蒲原はにっこり笑ってびしょびしょの状態でこちらに手を振っている。
その様子を見て、私は何かがおかしいと感じた。
川の水の色がおかしいことに気づいたのはそれから十秒ほどたったあとだった。
私は叫びながら私は迷わず蒲原の元へと近くの階段を降りて土手へと走って行った。
「蒲原!早く川から上がって!」
しかしそれは遅かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の土曜日に出す予定です。
わかりづらいと思いますが慧凪はエリナとよみます。
感想お待ちしてます。




