ぶち開けた大穴の先に
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
「えーじゃあ、めっちゃ長い呪文じゃないといけないの?テルもあんなダサダサ呪文唱えるん?」
「んなわけ。そんな長いの俺絶対噛むし忘れるから。」
「……他の人はなんでも好きなのでいいんですよ。私は代償でこんなダサダサなやつなんです。好きでやってるわけじゃないんですよ。もういいですか?私の呪文詠唱に関しては見ない、聞かない、笑わないでお願いしますよ。」
トテトテ、と2号がテルの背中から降りて近くまで来て言った。
「エリー、火、モッカイデキルカ?」
不機嫌そうなアルはそれを聞いた真面目な顔をして言った。
「あぁ、そうですね。もう一度、……この辺でいいか。ここら辺に向かって火を噴くことはできますか?」
嫌なのが伝わったのか、慌ててアルは付け加える。
「すぐに回復するようにします。もう痛みは感じさせませんから。」
アルの真面目な顔には安心感があった。
「……分かった。」
そう言って私はもう一回火を噴こうとした。
頭の中にはさっきの様子を思い浮かべて。
……しかし、私の口から火は出てこなかった。
どれだけ息を吐いても、空気の温度は変わらない。
「うーん。土壇場の力でしょうか……。なんだったんだろう……?」
不思議そうなアルは2号と顔を見合わせる。
「ん?」
「テル、どうしましたか?」
「いや……なんだ?音波……いや?リル?この暗号知ってんのは集落のやつらだし。――?」
突然テルが何かを聞き取ったのか、反応している。
「――――!――!」
よくよく耳を澄ましてみると、か細くキンキンした音がかすかに聞こえてきた。
アルや2号は分からないのか、首を傾げている。
「アル!」
バッとテルは目を見開いて言った。
「ここからこの角度で真っ直ぐ、距離400mほどで壁ぶっ飛ばせるか?」
「大きさは?」
アルはマントをバサっと翻して手を前に伸ばした。
「人が通れる大きさで。リルがその先にいる。」
「壁は何枚です?」
「6……7、8。8枚だ。」
「分かりました。下がっていてください。吹き飛ばします。」
アルはみんなが自分の後ろに下がったことを確認して唱え出した。
「――我は光なり。
されど純白にして、なお闇を孕む者。
虚空を裂き、理を焼き、万象を焦がす焔の矢。
無垢なる輝きよ、束ねられし瞬間に世界を断て。
滅びの果てでなお輝く、唯一なる真光――
いま、我が眼前に収束せよ。
罪を貫け、影を消せ、そして存在を焼却せよ!
カタストローフェ!」
唱え終わった瞬間、辺りは真っ暗になった。
全ての光がアルの手のひらに集まったようで、ハッという小さなアルの掛け声と共にとてつもなく大きな音と共に地面が揺れた。
あまりの揺れに立っていられないほどだった。
「……絶対怒らせちゃダメな人だ。」
本気でそう思った。
私はそっと向きを180度変えてアルの方を見ないようにしていた。
何故ならまた笑いそうになっていたからだ。
――アルはとある有名な光線を打つ格好をしていたからだった。
しっかりと足を開いて構え、両手を広げて前の方に突き出す、あの有名な戦闘民族のような、アレ。
「……ふう。流石に当たるとまずいので一枚残しました。行きましょう。……エリー?何故後ろを向いているのですか?」
「な、なんでもない。ただちょっと、ね。」
「……面白かったのですね。私は面白くないんですよ。こういう呪文やポーズをとらないと魔法を放てないんですから。諦めてください。」
またしても不機嫌になったアルはマントを翻して穴を開けた通路へ進んでいった。
「ここだ。この壁の向こうにリルがいる。」
スッと壁に手を当てたテルが言う。
「じゃあアル、頑張って……ふふっ。」
「あれだけ言っても笑うんですか……。」
「いや、ここは俺が。アルがやったら火力やばいしエリーがツボるしいいことないだろ。これくらいならいける。……下がってろ。」
言われて私とアル、2号は後ろの方へ下がる。
「ウインドエッジ。」
静かなテルのつぶやきと共に目の前の壁が崩れた。
軽く爆発したかのように石の破片がこちらへ勢いよく飛んでくる。
「わっ!……痛った。」
慌てて腕で庇おうとしたが、1つ間に合わず、頬に小さな傷がついてしまった。
つつ、と少し血が垂れてきた。
「大丈夫ですか?治しましょうか。顔に傷がつくのはあまり良くありませんから……。」
「ううん。これくらいすぐ治るよ。」
「いいえ。これでお嫁に行きおくれでもしたらそれこそ後悔しますよ?」
「これくらいで大袈裟な。またあの長い呪文唱えて恥ずかしい思いしたいの?」
「……もういいです。」
プンプンしている様子のアルはさておき、テルの方を見ると、テルはリルと共にワンワン泣いていた。
よほど再会が嬉しかったのだろう。
「無事?」
「うんっ!まぁ脚折れてて走れなくて逃げれなかっただけなんだけどね。」
リルは折れてると言いながらも獣人はタフだから、と笑いながら言った。
「一応歩けるけど、流石に戦闘には出たくないかもね……。」
リルはそう言ってちょっと歩いてみせた。
少しふらつくが歩行だけなら問題なさそうだ。
「アル、治療してあげなよ。」
言ったが、アルは首を横に振って言った。
「残念ながら、ここの世界で生まれた者には関与できないのですよ。」
「そうなんだ……。」
「あ……。怪我させちまったか。すまねぇ。」
アルが私の頬をつたう血を見て謝ってきた。
「ううん。いつ壁が壊れるか分からなくて部屋が狭かったら確実に怪我する可能性のあるリルが怪我しないようにでしょ?大丈夫よ、これくらい。」
「ならいいが……。アル、とりあえずリルを送る魔法陣描いてくれる……アル?」
アルの返事の代わりにあの独特な口調が返ってきた。
私たちは凍りついたように動けなかった。
聞きたくないあの甲高い笑い声が響く。
「キャキャ、逃すわけ無いだろぉ?さぁ、楽しもうじゃぁないか。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の土曜日に出す予定です。
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