呪い
世界は多くの願いが落ちている。
ーお金が欲しいー
ー空を飛びたいー
ー過去に戻りたいー
いろんな願いだ。
もしも、どんなに実現不可能な願いでも叶うチャンスがあるのなら。
これはいろんな願いを持つ者たちと願いの管理者の記録。
コンコン。
扉をノックして少し待つと、アルの顔が出てきた。
「あぁ、えっと……、誰でしたっけ。」
「エリーだよ。ちゃんと自己紹介していなかったね。ごめん。」
「いいえ、こちらこそすみません。散らかってますが、どうぞお入りください。」
言われるがままに私はアルの部屋へと足を踏み入れた。
「主様、呪イノ方、デスカ?」
「ああ。少し基本の検査をしててくれ。」
「承知シマシタ。デハ、コチラヘ。」
先ほどの個体とかなり似ているが、おそらく異なる人形だ。
「あなたは何号さんなの?」
「私ハ、5号デス。」
「へぇ……。どうやって見分けるの?」
似た様な人形同士なのでわかりづらい。
「頭ノ形デ見分ケラレマス。1号ハ四角柱、2号ハ球、3号ハ円錐、私5号ハ正八角形デス。」
それだけ言うと、5号はテキパキと私のことを調べ上げていく。
「終了デス。デハ戻リマス。」
そう言うとまたアルのところへ戻っていった。
「主様、終ワリマシタ。」
「あぁ、早かったですね。丁度区切りがついたところだったので良かったです。じゃあ、模様を見せてもらえますか?」
「うん。」
そう言って私はリルに指摘されたところをアルに見せる。
アルは模様に手をかざすと、何かを呟き出した。
その手が模様に触れない、ほんのわずかな距離で止まった瞬間、空気がピンと張りつめるのを感じた。
アルの手に力がこもり、静かだった部屋に、かすかな風のようなうねりが生まれる。
アルのつぶやきが大きくなったと同時に何やら首元がバチバチしだした。
まるでアルを拒む様に。
「……っ。何でしょうか……。エリー、痛みは?」
「無いよ。ほんのちょっぴりピリッてきたぐらい。何か分かった?」
私の問いに、アルは眉をひそめてしばらく黙り込んだ。
やがて、低い声でゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「……あまり分からなさそうです。しかし、これはまた――結構強力な呪いですね。」
そう言いながら、彼は手を引っ込め、少しだけ肩をすくめた。
「先ほど、魔法陣も見ていましたが……おそらく、あれと同じ術者のものです。術のかかり方の癖が似ている。」
「つまり、同一犯?」
「可能性は高いです。しかも、反射が上手い術者のようです。」
「反射……?」
「ええ。こちらが解析しようとした瞬間、逆に干渉してくる。“情報の暴露”に対して“拒絶”が走る。普通の呪いならどんな魔法や呪いにも反応してくるんです。」
そう言うとアルは、ほんの少しだけワクワクした様な目をした。
「ここまで解呪に苦戦しそうな呪いは……正直、初めてですよ。」
アルはどこからか取り出した紙に何かを書きながら言う。
「ですが、僕だって負けていられません。これを解析していくと、おそらく術者に辿り着けると思いますよ。魔法陣もありますしね。」
アルは自信がある様に言った。
「本当?分かりそうなの?」
ワクワクして聞くと、アルはフム……と考え込みながら、
「ええ。あと3時間ほどください。そうしたら対処法とかも分かっていると思いますよ。」
「分かった。待つよ。寝てていい?さっきからなんか眠くて眠くて。」
「……寝ている間に模様調べるためにあなたに触れてもいいならいいですよ。気になるなら寝ないでもらいたいですが。」
「いいよ、触っても。正しい倫理観の範囲ならね。」
「それは重々承知してますよ。」
「じゃあおやすみ。」
そう言うと、私はそばにあったごつごつしたソファに体を沈め、目を閉じた。
胸の奥にまだ残る呪いのチリチリを感じながら、意識がふっと遠のいていく。
「これで……が調べ……。探し……して、報告……きゃ……。」
そんな声が聞こえた様な気がしなくも無かった。
気がつくと、どこかの河原だった。
「確か……ここは……。」
思い出そうとするが、なかなか思い出せない。
だが、これだけはハッキリしていた。
「……夢だ。」
繰り返し見るいくつかの夢の中で1番見る夢だった。
私は大切な“何か”をクラスメイトに盗られて追いかけてきたんだっけ。
「何だったっけな……。」
その大切な何かが思い出せない。
その時、蒲原の声がした。
「おーい、何やってんだー?」
明るい笑顔でこちらに手を振ってくる。
これもいつも通り。
そしてなぜか私の学校にいつも置いているタオルなどが上流の方から流れてくる。
生ゴミなどと一緒になって。
「……?あれ、エリナのものじゃ無いのか?ほら!あれ、俺があげたやつ!何で流れてんの?」
そう言いながら蒲原は躊躇なく流れてきた私の物を拾いに川の中へ入っていった。
拾い上げると、私の方に歩いてきて渡してくれた。
「ほら。何で流れてたんだ?エリナが流したとは思えないけど……。なんかあったか?」
「……何も。ごめんけど……もう関わらないで欲しいかな。」
言うのは苦しかったが、でも言わないといけなかった。
蒲原にターゲットが向かない様に。
そして……蒲原が“あの出来事”に関わることがない様に。
蒲原はショックを受けた様な顔をしながらこちらへと近づいてくる。
「どうして……。俺、なんかした?謝るからさ。」
蒲原の善意が私にとっては嬉しいものであったと同時に、終わらない悪夢の様でもあった。
「お願い。もう関わらないで。あなたのためなの。」
そう言って走り出す。
そうしているうちに意識が現実に戻っていく様な感覚に陥った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は次の水曜日に出す予定です。
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