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最終章 アレンシアの魔女 05話 風が吹く丘

 俺は立ち上がり、彼女の正面まで歩いて、膝をつく。


「!!」


 思わず後ずさりしかけたが、なんとか踏みとどまった。

 フードを被った彼女は……骨だけになっていた。


「こんな……こんなの、あんまりだろ……」


 この朽ち果てようは、もう数年()っている。

 つまりマールは兄さんよりもずっと早く、亡くなっていたんだ。

 俺は堪えきれず、ぼろぼろと涙を(こぼ)した。


 彼女は十日間以上(とど)まった場所か、五日間以上旅をともにしたものに、災厄を振りまくという。

 故に、一人で旅をせざるを得なかった。


 それでもアレンシアを巡り、魔法という素晴らしい技術を伝えていった。

 兄の本に書かれたことが事実ならば、マールはとてつもなく偉大な人間だ。


 それがこんな、想像以上に寂しげで、人気のない場所で、ひっそりと朽ちている。

 その姿は、あまりにも悲しすぎた。

 

 ふとマールの横を見ると、腕輪が置かれていた。

 俺はそこに、兄が書いた本の写しを重ねる。


「マールよ。これはあなたの旅の、唯一のともだったセレニウス・ノートリアスが書いた本です。どうか、お受け取りを」


 それから俺は、彼女の冥福を祈り、立ち上がる。

 せめて故郷である、ここ旧マールの村の土で眠らせてあげたい。


 俺は(ほこら)の裏手に出てみた。

 そこは四方が岩壁に覆われており、柔らかな風が吹いていた。


 ここなら、いいだろう。俺はここに穴を掘り、マールを生涯、あたため続けたローブとともに遺骨を抱え、そっとその穴に安置した。


 マールの横には、その長く険しい旅を、足となって支え続けた杖を添え、土をかけ、墓石を置く。


 そこには“偉大なる(あかつき)の賢者マール、ここに眠る”と記した。


「マールよ。このような簡素な墓所で申し訳ない。しかし、あなたが残した気高き魂と深き知識、その偉業と貫き通した愛は、必ず後世に伝えます。壮絶な生き様だったのですから、せめてこれからは、安らかにお眠り下さい」


 涙が止まらない。

 俺はしばらく手を合わせて祈りを(ささ)げると、この聖なる墓所を後にした。



 この丘には、ずっと変わらない風が吹いている。



 石碑の前には、偉大なる紅の魔女のワンドと腕輪。

 そして深すぎる愛を(つづ)った本、



       『アレンシアの魔女』



 が置かれていた。




(真訳・アレンシアの魔女 上巻 マールの旅 終)

無事完結という事で、あとがき的な。


この物語は「真訳・アレンシアの魔女」を今後、続けていく上で欠かせない、アレンシアの世界で神として崇められることになった少女の物語です。


故にその性質上、辛く、過酷で、どす黒かった物語を何とか薄めて、幸せだった時間を切り取り、一つの作品にまとめました。


一方で「下巻 石碑巡りたち」は上巻とはうって変わり、マールの時代からずっと先、1000年後のアレンシア。

上巻でマールが残した石碑の内容を追う”石碑巡り”を行うという、カナクとユーリエの淡い恋物語です。


下巻を際立たせるには、上巻をあのような形で描くしかありませんでした。

ごめんね、マール。


本当は間髪入れずに投稿したかったのですが、少しだけ余韻に浸らせて頂きたく、お時間を頂きます。

走り始めたら止まらないので、つかの間の休息。


初めてのWeb投稿作品として、素晴らしい経験をさせて頂きました。

この物語は、完結してからが醍醐味だと思っております。

下巻を読んで、え、は?となって頂き、再び上巻に戻ってくる。

そんな二度見したくなるような作品仕上がったと思います。


ご意見、ご感想、お待ちしております。

それでは下巻、お楽しみ下さい!


かずさともひろ

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